こう説明するのは、現在も新宿区内に拠点を置く指定暴力団下部組織の元幹部。同じ系列の二つの暴力団がそれぞれ面倒を見ていたスカウト会社同士が揉め事を起こしたため、暴力団同士の話し合いになったというが、対立するスカウト会社二社が後ろ盾になっている暴力団のいうことを聞かないどころか、暴力団にたてついた。「貧すれば鈍する」で、コロナによる不景気により、金がなくなった反社組織同士の対立という見方もあるが、その果てに、それならば潰してしまおう、ということで、暴力団によるスカウト二社の関係者探しが始まった。これが「狩り」だと言われているのだ。
まるでVシネマやヤクザ漫画の世界の出来事だが、まさにその通りに、公衆の面前でこうした「狩り」が行われた。歌舞伎町の中でもよりディープな新宿区役所通りはもちろん、テレビなどでもよく出てくる「歌舞伎町一番街」の看板が掲げられた通り、JR新宿駅前など人目につくメジャースポットまで、新宿のあらゆる場所でトラブルが発生し、一歩間違えれば一般人が巻き込まれかねない危険な状態だった。「狩り」を目撃したという、歌舞伎町の飲食店従業員が証言する。
「スカウト風の若い男性が、数人の男に囲まれて、スカウトかホストか正直に答えろ、と凄まれたり突っつかれたりしていました。男性が少しでも抵抗しようとすると、胸ぐらをつかんだり…。あまりにも一方的で恐ろしく、通行人も見て見ぬふりでした」(歌舞伎町の飲食店従業員)
新宿のあらゆる場所で行われていたという「狩り」の様子は、わずかであるがSNS上にも上がっている。
「スカウト風、ホスト風の男がいれば暴力団の集団が無差別的に取り囲み脅しをかけるし、それが路上だろうが飲食店ないだろうが所構わず行われていた。実は、狙われていたスカウト会社の関係者はすでにほとんどが歌舞伎町から逃げ出していたようですが、変な言いがかりをつけられたという無関係のスカウトたちの一部は、暴力団ともみ合いになり、流血沙汰にもなったようです。ホストたちは、チャラチャラした格好をしているだけで狩られるからといって、出勤の際は地味めな服を着てタクシーで店前まで行っているほど。その後、一応の手打ちがあったと言うことで事態は収まっているようですが、このまま景気が悪い状態が続けば、同じようなことはまた起きるでしょう」(元暴力団幹部)
噂が広まった流血沙汰は、あくまで激しいもみ合いの末、偶発的に出血しただけらしい。人探しが目的だからなのか、とくに凶器のようなものが振り回されることも、露骨に暴力行為がはたらかれることもなかったという。とはいえ、殺気立った男たちが怒声をあげながら集団で少人数を追い回し、取り囲んで詰め寄り罵声を浴びせる様子があちこちに出現するだけでも非日常的な出来事だ。そんな事件が何度も起きる夜が続き、街は異様な雰囲気に包まれた。
新宿のホストや風俗店も、生き残りをかけて、休業要請に従わずこっそり営業を続け、新型コロナの感染者を複数出すという「結果」を出した。スカウトたちも生き残りのために必死で、なりふり構わない方法に出たのだろうが、その結果、新宿・歌舞伎町のカオス化が進んで、減収を埋めるビジネスが成功したという気配は薄い。コロナウイルスに端を発した不景気から「窮鼠猫を噛む」のことわざを体現した違法スカウトたち。ウイルスに暴力に……街や住人に罪はないのだろうが、歌舞伎町のイメージは悪化するばかりだ。