それは朝日新聞が書評欄(2010年7月11日付)で取り上げ、映画化に至ってはスポンサーに名を連ねていたことからも明らかだ。書評を担当したライターの瀧井朝世がいかに「絶賛」したかを引用する。
「死んだ人間の本音を聞くことはできない。しかし周囲の証言から、祖父が何を正義とし、そして何を決断したのかが少しずつ組み立てられていく。そして最後まで信念を持ち続けた彼の心の強さが明るみに出る場面では、どうしても涙腺が刺激されてしまう。だが本書は『哀しくて泣かせるだけの本』ではない。祖父の真実を知った後、人生における決断を下す主人公たちのように、読み手にも何らかの勇気が与えられる。読後には、爽快感すら残されるのだ」
山場をいくつも作るストーリー展開と構成は、視聴率と向き合ってきたテレビでの経験を応用している。ある編集者は、百田から『ナイトスクープ』の分刻みの視聴率グラフを見せられた。ちょっと下がった原因は展開がもたついたからチャンネルを変えられた、上がったのは盛り上がるように山場を作ったからといった形で百田は事細かに分析してみせた。小説執筆中も何度も「チャンネルを変えられないようにせんとなぁ」というつぶやきを聞いたという。
徹底的に「おもしろい」に向き合う原点は、やはりテレビにあった。ここに彼にとっては自分が思っていることを正直に語っているにすぎない「右派的言説」が加わり、百田尚樹現象は完成に向かう。