お店しか行き場のない人だっているだろう。ママの店にもそんな人が少ないながらもいて、仕事が終われば来てくれる。そんな僅かなお客のために店を開けているし、これからも続けようとしている。これは小さな店でも一国一城を持った者にしかわからない矜持だろう。
翌々日、ママから電話を貰った。えらい剣幕でうっかり一度切ってしまった。
「あの議員夫婦、ボーナス600万ですって! 信じらんない!」
なるほど河合克行と案里夫婦のことか、夫婦合わせて640万円、どこまでも国民をバカにしている。まだ給付金の10万円すら振り込まれていない自治体もあるというのに。ちなみに私は日野市、新宿区や大田区などと並び給付が遅れているので貰っていない。いずれの自治体も印刷会社の変な子会社に委託したばっかりに間抜けな話である。
「栃木とか埼玉とか、みんなコロナのお店を公表してるのね。本当に怖い」
スナックではなくキャバクラだが、栃木県と埼玉県の店はクラスターの発生源として店名を公表された。感染経路を明確にする意図はわかるが、晒し者にするようで私は嫌だ。とくに埼玉県は東京での飲食を控えろだのと、知事の頓珍漢なパフォーマンスが目立つ。埼玉の多くのビジネスマンは都心に通っているというのに無茶だろう。全員がリモートワークや地元に勤めているわけもない。久々に更新したSNSで高級県産品を並び立ててご満悦になっている場合かと。なんとも無粋で面白くもない『翔んで埼玉』だ。
結局、ママは貯金を切り崩して店を続けるという。これだけ元気に怒れるママならひとまず乗り切ることだろう。ただし、これはあくまで私見だが、この歴史的疫病下、いわゆる水商売はこれまでの業態のままでは生き残っていけないかもしれない。いずれ大半が淘汰されてしまうかもしれない。もう飲酒を伴う対面接客という形態そのものが難しくなっていくのではと懸念する。かといってオンラインのよる営業はキャバクラやガールズバー、メイドカフェなど導入してはみたものの、通常営業を上回るほど上手くいったという話は聞かない。やはり男性は生身の可愛らしい女の子や美人のお姉さんを傍らに話をしたいものだろう。
現状でも厳しいコロナ後の飲食業界、第二波が起きたならば、再自粛が要請されたならば、今度こそ飲食業界はもちろんのこと、日本および日本人そのものの仕事のスタイル、生活スタイルを含めた文化習慣そのものが変わらざるを得なくなるかもしれない。
●ひの・ひゃくそう/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。ゲーム誌やアニメ誌のライター、編集人を経てフリーランス。2018年、評論「『砲車』は戦争を賛美したか 長谷川素逝と戦争俳句」で日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞を受賞。2019年『ドキュメント しくじり世代』(第三書館)でノンフィクション作家としてデビュー。近刊『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。