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2020.07.10 07:00  SUUMOジャーナル

「歩道」がにぎわいの主役に!? 規制緩和が生むウィズコロナ時代の新しい街の風景

(写真提供/ワークヴィジョンズ)

コロナ対策として「3 密」の回避が提唱され、商業施設をはじめ、公共交通機関やオフィスでも「ソーシャルディスタンス」を呼びかける掲示や床にラインが引かれるなど、さまざまな対策が採られています。
そして、この影響は街の交通を担う道路や歩道の使い⽅にも新しいアイデアを取り込む変化を与えているようです。

そこで、これまで街の再⽣や道路・歩道の活⽤に取り組んできたワークヴィジョンズの⻄村浩さんに、国内・海外の魅⼒的な事例やこれからの街と暮らしについてお話を聞きました!
ワークヴィジョンズの西村浩さん(右)。佐賀市街地活性化を目指してオープンさせた「MOM’s Bagle(マムズ・ベーグル)」の前で(写真提供/ワークヴィジョンズ)

全国各地で行われている! 「歩道活⽤」の実験歩道活用の事例として筆者の記憶に新しいのは、佐賀県の「SAGAナイトテラスチャレンジ」です。2020年5月22日から6月6日の18時半から22時の間、佐賀市街地の屋台骨である中央大通りで、「3密」回避と地域活性化のために店舗の軒先1mほどのスペースにテラス席を設ける社会実験が行われ、全国の注目を集めました。このSAGAナイトテラスチャレンジの企画アドバイスを行った西村さんによると、「ここ2~3年でこのような社会実験が全国で盛んに行われている」と言います。

全国的に注目を浴びた佐賀県の歩道活用の社会実験「SAGAナイトテラスチャレンジ」実施中の風景(写真/唐松奈津子)

「岡山県岡山市、愛知県岡崎市でも佐賀県同様の1mチャレンジをやってきました。それぞれの街、もっといえば、その通りごとに、場所の魅力を活かした歩道の活用が進んでいます」(西村さん、以下同)

それでは、具体的にはどんなことが行われているのでしょうか? 西村さんに、岡山市や岡崎市の事例についても教えてもらいます。

「岡山県岡山市の県庁通りでは、もともと車道を一方通行2車線から1車線に減らしてその分を歩道に充てたいという市の計画がありました。自治体は道路や施設・設備などの『ハード』を先に整備しがちですが、それよりも『誰がどのように使うのか、使いたいのか』という『ソフト』の方が大切です。そのため、道路を整備する前に社会実験として、これまで2年かけて駐車場の一角にお店を出してみたり、道路の使い方についてのディスカッションをやってみたりしました」

岡山市の駐車場の一角で開催された、歩道の活用を考える「県庁通りデザインミーティング」(写真提供/ワークヴィジョンズ)

車1台分のスペースでジュース屋さんも開業(写真提供/ワークヴィジョンズ)

「愛知県岡崎市の連尺通りでは、住宅街のなかにある通りの雰囲気を活かす形で、オープンテラスを実施しました。また、その近くの康生通りでも、地元の人たちがやはり軒先1mのところに水槽をおいたり、おもちゃを出してみたり、遊び心のある風景をつくっています」

閑静な住宅地の中にある連尺通り(左)。1m分のテラス席が出されたことで、にぎやかな雰囲気になった(右)(写真提供/ワークヴィジョンズ)

同じく連尺通りの社会実験中の様子。白いビニールテープで貼られた「けんけんぱ」のガイドが行き着く先には、木のおもちゃが待っている、地元住民のアイデア(写真提供/ワークヴィジョンズ)

岡崎市の連尺通りと平行に走る康生通りでは、雑貨店の店先に並べられた多数のおもちゃで、通りの一角が、明るく、楽しげな印象に(写真提供/ワークヴィジョンズ)

「3 密」を避けるために、道路の使⽤規制が緩和された!このようにここ数年、歩道の活用が全国で進んできた背景の一つとして、道路の活用について、徐々に国の規制緩和が進んできたことがあります。通常、歩道を含む道路を使用するには、管轄の警察署に「道路使用許可」、道路管理者に「道路占用許可」をとる必要があります。

ところが近年、イベント等で道路を活用したいというニーズが高まり、2005年に地域の活性化やにぎわい創出のため、道路管理者の「弾力的な措置」、つまり許可に融通を効かせるよう国土交通省から通知が出されました。さらに通常、地域の団体や民間企業が道路を使用する場合はその許可申請と一緒に「占用料」を払う必要がありますが、地方自治体が一括して申請することで占用料は不要になりました。

今回、その国交省が新型コロナウイルスの影響による社会ニーズを反映する形で、6月5日にさらに規制緩和を行ったのです。つまり「3密(密閉空間、密集場所、密接場面)」を避けるための暫定的な営業において、地域の清掃に協力するなど一定の条件を満たせば、地方公共団体だけではなく、地元関係者の協議会や地方公共団体が支援する民間団体なども道路の占用料が免除されることに。これにより、テイクアウト販売やテラス席設置のための道路使用・道路占用の許可が受けやすくなりました。

2020年6月5日に国土交通省から通知された、道路占用の許可基準緩和についての内容。イメージ画像に「SAGAナイトテラスチャレンジ」の画像が使用されている(資料/国土交通省)

先に紹介した佐賀県や岡山市、岡崎市の事例は、国の通知を待つことなく自治体独自で展開した例ですが、今回の国交省の通知によって全国でいっそう、このような取り組みが進みそうです!

海外の街の「なんだかステキ!」も歩道がカギを握るこれまで西村さんが街の再生を考えるときには、海外の事例なども参考にしてきたそうです。

「欧米の人たちは外での過ごし方がすごく上手ですよね。特に北欧の国などでは日照時間が短いために、外で過ごすことへの願望が強いらしく、天気のいい日は出来る限り日光の当たる場所にいたいといいます。

写真はオランダのユトレヒトの街の風景ですが、人々がテラスで食事を楽しむ風景は、欧米のいたるところで見ることができます。ポイントは、実はテラス席のテーブルや椅子が出ているスペースだけ歩道のパターンが違っていることです。歩道の活用を前提にした街区の設計が意図的に行われることを示すものだと思います」

オランダ・ユトレヒトのカフェの風景。テラス席はパターンの違う石畳の中にきっちり収まっており、歩行者を妨げない形に(写真提供/ワークヴィジョンズ)

先に紹介した岡山市の県庁通りでは今まさに工事が行われており、この歩道のパターンを変えることによって、活用可能なスペースを明示する手法を取り入れたのだそうです。さらに西村さんは、海外で歩道の活用が進んできたのは、外で過ごす風土や習慣だけでなく「ボランティアをはじめとする公共空間の使い方の教育もポイント」だと言います。

「例えば海外の公園では、管理・運営が市民団体やボランティアによって行われているところが少なくありません。海外では、地域に住む人たちが自分たちの街をよくするために、公共空間の清掃や整備はボランティアによって運営されるのが当たり前で、人気の公園などではボランティアの順番待ちすらあるそう。これは、幼いころからボランティアに参加することが普通で、みんなが使う場所を気持ちのいい空間にしたいから自分たちでやる、という教育が根付いているからだといえます」

アメリカのニューヨーク市のブライアント・パークは「BID(Business Improvement District)」という仕組みを活用にしていることでも有名。地域のエリアマネジメント活動資金を自治体が周辺の企業等から負担金として徴収・再配分、管理も一体的に任せて街づくりを推進する(写真/PIXTA)

気持ちよく使いたい、気持ちよく過ごしたい人たちが自分たちで動く、この思想や考え方は、これからの私たちの生活にも、必要な視点になりそうです。

これから街や暮らしはどうなる!? 私たちの新しいライフスタイルこのように、歩道が有効活用されるようになったとき、私たちの街や暮らしはどのように変わっていくのでしょうか? 今回の新型コロナウイルスが与えた影響と、今後の展望についても西村さんに聞いてみました。

「近年、歩道に限らず、公共空間といわれる場所でのルールが厳しくなって、例えば公園でボール遊びもできない、といったように『自由さ』が失われてきていたと思うんです。これは自治体をはじめとする管理者と住民の間で『信頼』が失われてきた結果だと思います」

近年、日本の公園では禁止事項が増え、ボール遊びができない公園も増えてきた(写真/PIXTA)

「ところが、今回のコロナをきっかけに多くの人たちが外での時間を楽しむようになり、屋外の使い方が上手になったと感じます。例えばいつもは家でやるパズル遊びも外でやってみたら楽しい、とか、屋外の可能性にみんなが気付き始めた。これは失われた信頼を取り戻すチャンスなんです」

たしかに、先ほどの国交省のコロナ対策を目的とした歩道活用の通知も、全国からのニーズが高まったことを背景として挙げています。

「屋外、特に道路や公園などの公共的な空間をみんなが気持ちよく使っていくにはどうしたらいいか、それをしっかりと地域で話していくことで、これからの日本の街の景色が変わると思います。まずは自治体に対してそこで住む人たちが『屋外を使いたい!』と要望を上げ、地域主体で自律的な運用ができるように考え、お互いの信頼を回復していくことです。その姿を大人が見せることは、長い視点では子どもたちの教育にもつながります」

西村さんは公共空間をみんなが気持ちよく使うために管理者と住民の「信頼の回復」が重要だという(写真/唐松奈津子)

なるほど! 国交省の通知は一旦、今年の11月末までの暫定措置とされていますが、全国の自治体や住民の取り組み次第で、新しい国の動きにつながるかもしれませんね。

「面白い街に住みたい」気持ちから、街をみんなでつくるコロナの影響受けて、地方に住みたい、就職したい若者が増えてきたというニュースが話題になりました。住む街や住まいの選び方も変わりそうです。

西村さんは「例えばひと言で『地元』と言っても、その県や市町村のなかでどの街に住もうか、と考えたときに、どんな場所を選びますか? 『あの街、なんか面白いことやってるな』という街に住みたくありませんか?」と投げかけます。たしかに、かくいう筆者も地元である佐賀の街が面白くなってきた、と聞いて、昨年から東京と佐賀の二拠点生活を始めた一人です(笑)。

西村さんが手がける、佐賀市街地の駐車場(左)を活用してオープンした店舗「MOM’s Bagle(マムズ・ベーグル)」(右)。店の前の通りでは週末にマーケットが開催され、街の風景を変えた(写真提供/ワークヴィジョンズ)

「面白いことをやっている街には、人が集まるんですよ。それが不動産の価値を上げて、街全体の価値も上がっていく。自治体も、不動産をもつ人も、そこに住む人も、商売をする人も、みんなが街を面白くしていこう、という気持ちをもって同じ方向に進むことで、もっと魅力的な街になり、そこに住む幸せにつながると思います」

西村さんは「日本ではほとんどの公園が税金によって管理・運営されているなんて言ったら、欧米の人はびっくりするのでは」といいます。
面白そうな街を選ぶ、という観点はもちろん、西村さんの言うように「自分たちが街を面白くしていくんだ」「もっと心地よい場所、通りにしていくんだ」という積極的な関わり方ができると、全国の歩道や街も、私たちの住む場所も、もっと素敵になりそうですね!

●取材協力
・株式会社ワークヴィジョンズ
(唐松 奈津子(スパルタデザイン))

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