何をしてくるかと言えば、やたら生活音を立ててくるのである。本当に控えめな女性であれば、邪魔にならないように最低限の気を遣うだろう。でもここは新型コロナウイルスが渦巻く、首都圏。地方のような広さを誇る住まいではないので、多少の生活音がするのはわかる。でも彼女らが醸し出してくるのは、あからさまな生活音だった。
料理をする音、テレビ音声、画面の背後を(生足で)歩きながら「先にお風呂入るね〜」と一言。顔だけは辛うじて見せないものの、明らかに自分の存在をアピールしてくる。この2パターンのあざとい女と遭遇した飲み会を経て、パートナーがいる男友達とはオンラインで飲むことをやめた。やはり酒を嗜むという行為はシチュエーションも含めて、楽しむことなのである。
さて、男性軍からするとこの2パターンのあざとい女に対して「何がいけないの?」と思っているかもしれない。だが、彼女らは立派な爪痕を残している。それは飲み会に参加している私を含む、女性に対する牽制である。
先ほど、自分の存在をアピールしているとも書いたが、それもひとつの正解。さらにその奥には、「彼には私みたいな存在がいて、他の(男)友達もこうして認めてくれているんだから、簡単に手を出すと痛い目に合うわよ」──という、女の念が隠されている。
おそらく男性軍は気付いていない。もっと言えば、そんな女とつき合っている男は足が見えない鎖でがんじがらめになっていることも知らないでいるのだろうなと思う。そう、これが愛というものなのだ。
【プロフィール】こばやし・ひさの/静岡県浜松市出身のエッセイスト、ライター、編集者、クリエイティブディレクター。これまでに企画、編集、執筆を手がけた単行本は100冊以上。女性の意識改革をライトに提案したエッセイ『結婚してもしなくてもうるわしきかな人生』(KKベストセラーズ刊)が好評発売中。