ギリシアでは「文明世界に対するあからさまな挑発」とする怒りが強く叫ばれ、湾岸都市ピレウス市商工会会長のように、国内の実業家らにトルコとの商取引停止を、市民に対してはトルコ製品のボイコットを呼び掛ける者も現われている。
ギリシア正教会と系統を同じくするロシア正教会のウラジミール・ルゴイダ報道官も「数百万人に上るキリスト教徒の懸念の声は届かなった」と厳しく批判し、ローマ教皇も「大変悲しく思う」と声明を出した。ユネスコのオードレ・アズレ事務局長も、ユネスコとの事前協議なしに今回の決定が下されたことに「深い遺憾」の意を表明した。
しかし、イスラーム主義色濃厚なトルコ政府の姿勢は変わらず、ユネスコに対してはオズギュル・オズカン・ヤヴズ文化観光副大臣がTwitterアカウントを通じて次のような返答を示している。
「ユネスコ合意には(世界遺産)リストに登録された文化財の機能の変更を妨げるいかなる規定も存在しない。アヤソフィアをモスクとして使用することは確実に、件の合意の違反ではない。この状況はアヤソフィアの優れた世界的な価値には決して影響しない」(東京外語大学「日本語で読む中東メディア」より)
同じ返答のなかには、8世紀にモスクとして建設されながら、13世紀に教会へと変更され、1984年にユネスコの世界文化遺産に登録されたスペイン・コルドバのメスキータという前例の存在が強調されている。
このまま変更がなければ、アヤソフィアでは今月24日に共和国の下での最初の集団礼拝が実施される。
【プロフィール】しまざき・すすむ/1963年、東京生まれ。歴史作家。立教大学文学部史学科卒。旅行代理店勤務、歴史雑誌の編集を経て現在は作家として活動している。『ざんねんな日本史』(小学館新書)、『いっきにわかる! 世界史のミカタ』(辰巳出版)など著書多数。最新刊は『人類は「パンデミック」をどう生き延びたか』(青春文庫)。