ヤクザ社会の食事に対する思い入れは、これまでドラマや小説などで描かれてきた。マンガでも、ラーメンを好むヤクザ・滑皮秀信(なめりかわ・ひでのぶ)が主役となって裏社会を描く『闇金ウシジマくん外伝 らーめん滑皮さん』(真鍋昌平・原作/山崎童々・漫画)がある。滑皮は、裏切った兄貴分ヤクザにも情け容赦ない仕打ちをする武闘派だが、そんな時でも、用意した台湾まぜそばを無下にしようとする兄貴分に「腐ってもヤクザ者ならよ、どんな飯でも男下げずに食いつくしてみせろ」と窘める場面(第4話)がある。
「ヤクザの組織は親分を父親にした疑似家族です。ひとつ屋根の下でみんなが集まり、同じテーブルでメシを食うのが家族の基本です。大方の事務所では、今でもジャーにご飯が炊いてあり、冷蔵庫になにかおかずが入っている。ポケットに1円もない状態でも、最低限食べることはできるんです。これがヤクザの団結力の源だと語る親分もいる」(鈴木氏)
滑皮がインスタントラーメンに”ちょい足し”を施すシーンもある(第6話)が、その味は滑皮が上部組織の部屋住み組員時代に覚えたもの。現実のヤクザでもそうした料理を客や組員に振る舞うことがあるという。
「なかには玄人はだしの美味しい食事を作るヤクザもいます。料理を作り同じ組事務所に寝泊まりしたり、集まって一緒にご飯を食べたりすることは、絆を形成するため非常に大切なことだとされています」(鈴木氏)
ヤクザの食事の価値は、味付けでは決まらないようだ。