東京都内の飲食店勤務・諸岡弘晃さん(仮名・20代)も、コロナ慣れした職場と上司、客の意識の低さに悩まされている。
「客の体温を測り、手に消毒液を吹きかけていたのは7月の頭くらいまで。外が暑くなると体温が37度超えになる客が続出するし、消毒液も、用意する代金もバカにならない。真夏日に真面目に体温を測って客を断っていたらきりがないし、消毒もおしぼりで十分だということで、社長の指示でヤメになりました」(諸岡さん)
諸岡さんの店は、首都圏で数店の飲食店を経営する会社の傘下。社長の命令は絶対だ。諸岡さんと店長が自作で設置した客席の間の「飛沫感染予防シールド」も、視察に来た社長が「邪魔臭い」と取っ払ってしまったという。
「感染しても老人しか死なない、若い奴は経済を回すことが大事、が最近の社長の口癖です。客席も、以前は一席飛ばしにして密の解消をはかっていたんですけど、それじゃ儲からないということで、今は満席になるまで客を入れていますし、満席になると折りたたみ椅子を出してまで営業しています」(諸岡さん)
シールドを共に製作し設置した店長も、今では「コロナにかかかっても死なない」と楽天的であるという。
「店も社長も、言いたくはないんですがお客さんも完全に麻痺していますね。僕も最初は店をやめようとまで思っていましたが、だんだん慣れてきました。都から新たに出た時短営業要請にもうちは応じません。たまにふと我に帰り、危ないなとは思いますが…。同じような店は増えていると思います」(諸岡さん)
新型コロナウイルスの存在に慣れる、とあえていうならば、それはウイルス対策が日常に溶け込んだ状態のことを指すのであって、対処療法しかできないウイルスを気にしない生活のことではない。当初は危険を感じていたのに、だんだんと感覚が麻痺しているのか、それとも、目の前の危機があることを考えようとせず、状況を過小評価しようとしているのか。おそらく、そのいずれもの感覚が、日本だけでなく世界中に蔓延しているはずだ。
再び日本全国で感染者が急増する中、大都市部ではそれぞれの自治体から飲食店などに対し、再度の時短営業要請、休業要請が出された。しかし、補償額が少ないことなどから、要請に応じないという店も少なくない。生きる為にはやるしかない、という気持ちは理解できるし仕方が無い側面もあるだろう。ただ、対策が甘い、対策を全くしない、というのは社会に対して無責任すぎる。今一度「ウイルスと生きていく」という現実を、見つめ直したい