あるメインレースの文言。「51キロだし小回りコースは得意だし、スタートを決めてすんなり先行できれば、勝ち負け」なる馬に目を付けた。パドック登場時点で3番人気。鞍上も堅実で信頼でき、この日すでに1勝をあげている。さらに前走のレース映像を見れば終いの脚も切れる。私は単複で大枚勝負。同じ思いのファンも多いようで、発走時には1番人気になった。
これが好スタートで難なくハナへ。道中もほぼ順調、持ったままで巧く4角を回って「よし!」と拳を握った。ところが―。怒涛の追い込み勢に呑みこまれての9着。
悪いところなかったやん! 私は眉を吊り上げたまま絶句した。タラレバ要素がひとつでも欠けていたら諦めもつくが……。「追い込み勢が迫ってこなければ」という一文を加えねばなるまい。
馬を悪く言いたくないという思いがコメントの根底にありそうだ。長所を見つけて応援したい。いつかは走ると期待したい。
ある調教師は「多分に馬主さんに向けたもの」と言った。どんな競馬でも勝てば文句なしだが、負けたときには理由が要る。だからタラレバで予防線を張っておき、結果が芳しくなかったときの言い訳に、というセンも。
とすれば、まさにその馬のウィークポイント。記者をケムに捲くことはあっても、馬主さんには隠せまい。
「もまれずにうまく流れに乗れれば」というコメントは枠順が決まる前だろう。その馬が外枠に収まったならば……。この推論もタラレバばかりでした。
●すどう・やすたか/1999年、小説新潮長編新人賞を受賞して作家デビュー。調教助手を主人公にした『リボンステークス』の他、アメリカンフットボール、相撲、マラソンなど主にスポーツ小説を中心に発表してきた。「JRA重賞年鑑」にも毎年執筆。
※週刊ポスト2020年8月28日号