真壁昭夫 行動経済学で読み解く金融市場の今

商社株を買い集めるバフェット氏と「保守性バイアス」の罠

バフェット氏が日本の商社株に投資しようと考えた理由を読み解く(写真/AFP=時事)

 人は常に合理的な行動をとるとは限らず、時に説明のつかない行動に出るもの。そんな“ありのままの人間”が動かす経済や金融の実態を読み解くのが「行動経済学」だ。今起きている旬なニュースを切り取り、その背景や人々の心理を、行動経済学の第一人者である法政大学大学院教授・真壁昭夫氏が解説するシリーズ「行動経済学で読み解く金融市場の今」。第1回は、今年8月末、日本の5大商社株を買い集め、突如として大株主に浮上した“投資の神様”ウォーレン・バフェット氏について。

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 例えばこんな経験はないだろうか。昼休みのランチで「午後から大事な打ち合わせがあるから、近所の定食屋でササっと済ませよう」と考えて出掛けたのに、お目当ての店の先に新規オープンしたラーメン屋が見えた。相当長い行列で、メニューもよく見えないのについ並んでしまい、ようやく食べ終えた頃には昼休みを過ぎていた。しかも、ラーメンの味はさほど好みではなく、午後の打ち合わせにも遅れてしまった……。

 合理的に考えれば、最初に考えた定食屋で食べるべきだったのに、リスクを考慮せずつい並んでしまう。明らかに非合理的な行動に見えるが、こうした合理性では一見説明のつかない行動を取るのが本来の人間というもの。これを、行動経済学では「ハーディング現象(群集心理)」と呼ぶ。ハーディング(herding)とは英語で「(動物の)群れ」という意味。「これだけ人が並んでいるなら絶対おいしいはず」と思い込み、群れをなすことで安心感を持ち、気付かないうちに大勢の動きに巻き込まれてしまうのだ。

 特に金融市場においては、非合理的に見える現象が数多く出現する。8月末、世界的に著名な“投資の神様”と称されるウォーレン・バフェット氏が日本の5大商社(伊藤忠商事、丸紅、三菱商事、三井物産、住友商事)株を買い集め、突如大株主として浮上した。商社株をそれぞれ5%以上保有し、場合によっては保有率を最大9.9%にまで引き上げる可能性まであるというが、このニュースを受けて、商社の株価が軒並み上昇したこともそうした非合理的な“心の働き”が関係している。また、今回バフェット氏が日本の商社株を買い集めたこと自体も、行動経済学の観点から見れば、“ある心理”が働いているのではないだろうか。

 バフェット氏は、幼少期から投資で成功を重ね、800億ドル(約8.4兆円)を超える資産を持ち、米誌『フォーブス』の「世界長者番付」上位に常に名を連ねる、世界屈指の資産家だ。バフェット氏の投資手法といえば、成長が期待できる身近な銘柄(自身が毎日飲むコカ・コーラや生活用品のP&Gなど)を安いところで買って長期保有することで収益を上げる「バリュー株投資」、言い換えれば「逆張り」の発想に基づくものである。

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