コロナ禍によって中小企業の倒産、飲食店の閉店、個人事業主の仕事の減少など、暗い話はあとを絶たない。しかし、コロナの逆境をむしろ経営判断の材料にする大胆な行動力で、生産や販売を回復させた企業も存在する。
醸造ゼロから再起 工場移転で販路拡大
「石見麦酒」は島根県石見地方にあるクラフトビールメーカーだ。2015年の創業以来、年間30種類以上のクラフトビールを造り、商売は順風満帆。
潮目が変わったのは2月下旬。新型コロナウイルス感染拡大の影響で予定していたビール販売イベントがすべて中止になり、さらにビールを卸している飲食店は休業や時短営業で、売り上げが半分以下に。それまでは毎日醸造していたが、4~5月には醸造する日が1日もなくなり、時間だけが余った。
そこで工場長の山口厳雄さんは、空いた時間を有効活用しようと、2021年2月に予定していた工場移転を8か月前倒しで行うことにした。
「そもそも、移転するには醸造をストップさせる必要があった。幸か不幸か、その機会が訪れた。絶好のチャンスだと思いました」(山口さん・以下同)
本来、ピンチのはずの醸造ゼロ期間を、チャンスととらえたのだ。
時は金なり! 利益はあと!! とにかく行動あるのみ
醸造をしていないといっても、ビールの在庫は倉庫に眠っていた。在庫を抱えたまま移転しては、莫大な労力と資金が必要になる。そこで在庫を減らすため、地元の飲食店と組んでビールとおつまみをセットにして販売する“クラウドファンディング”を行うことに。
これが大成功し、在庫一掃どころか足りなくなり、急遽醸造するまでに。さらにその間、取引のある飲食店のランチデリバリーもかって出た。
「醸造作業がないから時間は余る。その時間で飲食店のランチをバイクで配達しました。もちろん無償です。困ったときはお互いさまですから」