百田尚樹現象と「トランプ現象」の類似点
江川:『ルポ百田尚樹現象』を読んで、今の社会を理解するうえで大事なのかもしれないと思いながら、あまり見たくないから見ないできたもの、あるいは置き去りにしてきたものを見せられたという感じがしました。見ないできたものというのは百田さんとその周辺であり、置き去りにしてきたものというのは、1990年代の「新しい歴史教科書をつくる会」です。今に続く色々な問題が可視化され、右派のポピュリズムという一つの系譜が示されていた。
そして、先ほどの話のように、今の時代は事実よりも思いや気持ちが重視される。思いに訴えかけるほうが影響力を持つことにもなる。思想的に右か左かということには関係なく、そうした現象が起きている時代の一断面を見せられました。
石戸:江川さんにそう言っていただけて嬉しいです。ただ、一方で反響として多かったのが、百田さんをはじめ、右派の人々をテーマに取り上げるのはいかがなものか、という反応でした。彼らを利することになるだけじゃないか、と言われることもありました。
江川:誰がそんなバカなことを言っているんですか?! そういう方は、百田さんやその周辺の出来事を苦々しい気持ちで見ている人だと思うんですけれども、「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」という言葉をご存知ないんでしょうか。彼を知ろうとしないと、百戦連敗という感じになってしまいます。たとえ自分にとって望ましくないものであったとしても、その望ましくない現象がどうして出てくるのかを知っておいたほうが良いと思うんです。
2016年にはアメリカでトランプ大統領が誕生しました。あのときは、多くの人がトランプさんは負けると思っていた。トランプ支持者をきちんと取材せずに、民主党が勝てると思っていた人も多かったようです。これはまさに相手のこと、相手が支持されている現象を見ていなかったがゆえの読み違いであり、失敗です。朝日新聞の国際面はいち早くトランプ支持者の熱狂を報じていましたが、選挙の結果を見ると、そうした熱狂があちこちにあったんだろうと想像できました。