倒産ラッシュの本格化は2021年春か
しかし、5月の緊急事態宣言解除以降、在庫処分業者への不良在庫の買い取り要請は、当初見込まれていたほどには増えませんでした。
もちろん、アパレル各社の在庫所有数も個々に違えば、財務内容も異なります。引き続き在庫引き取りを要請したアパレルもありましたが、6月以降は要請しないまま過ごしたアパレルも珍しくありませんでした。
その理由はいくつか考えられますが、まず6月の営業再開からなし崩し的に各店頭で始まった春夏物バーゲンセールやインターネット通販での割引在庫処分などがある程度効果があったと考えられます。もちろん、ブランド・店舗間によって売れ行きの好不調に格差があったことは言うまでもありませんが、九死に一生を得たアパレルも少なくありませんでした。
そして、政府や自治体等が矢継ぎ早に打ち出した金融支援によって一息つけたというアパレルも想像以上に多かったのです。私の知り合いの在庫処分業者も話していましたが、持続化給付金などの資金援助は、通常の助成金や補助金よりも申し込みも審査方法も簡素化されており、支給されやすくなっているといいます。
また、政府の意向を受けた各銀行は、融資の枠や審査基準を大幅に緩めています。ですから、通常よりもずっと融資を受けやすくなっているのです。前出の業者によると、「政府の支援金と金融機関の融資によって年内は持ちこたえるメドがついた。年内は在庫処分をする必要がなくなった」と胸をなでおろすアパレルが想像以上にいるそうです。
しかし、政府からの支援金はこれから毎年継続されるわけではありませんし、銀行からの融資はいずれ返済が始まります。今回の支給こそがイレギュラーだったと見るべきでしょう。
そのため、店頭の売れ行きが2019年レベルに回復しないことには、2021年初頭からは過剰在庫を抱えて資金ショートするアパレルが続出するのではないかと考えられます。前出の在庫処分業者も同様の危機感を抱いています。
また、国内有名ブランドからの委託を受けてアウトレット店をマネジメントしている知り合いの業者も、「来年の春から、今回一息ついたアパレルの経営破綻や倒産ラッシュが始まるのではないか」と心配しています。在庫処分やアウトレット店といった“アパレル業務の裏”を知り尽くしている関係者が一様に同じ見解であるところにリアルさが感じられます。