自然な流れで始まった別居生活も、早13年。別居生活はいいことしかなく、困ったことは「皆無」と妻の静江さんは話す。
「夫と暮らしていたときは、夫の行動や口ぶりがいちいち気になってイライラしていましたが、それがなくなったので、ほんとうに健康になりました(笑)。夫の仕事の時間や食事の時間を気にすることもないので、自分のやりたいことに没頭できる。今は庭仕事をしているときが至福のときです」
一方、夫の直彦さんは「誰にも気を遣うことなく気楽」と言いながらも、「いないと寂しいときもある」という。だんだん年をとってきて、一人でいるときに倒れたら困ると不安を感じることもあるそうだ。今は別々に暮らしていても、お互いが介護になったら助け合おうと、申し合わせているのは、登美さん・大吉さん夫婦も片桐さん夫婦もいっしょ。ほどよい距離で暮らしているからこそ、互いをいたわる気持ちも芽生えてくるのだろう。
互いの人生を尊重し合いながら子どもに関わる
「自由にさせてくれてありがとう」
最近になって夫からこう言われたと話すのは、島根県に住む梶谷美由紀さん(48歳)。家族で東京に住んでいたが、東日本大震災をきっかけに、11歳、8歳、3歳の子どもを連れて、夫妻の生まれ故郷である島根県に移住。期間限定別居のつもりが、別居生活は10年目に突入した。
「夫は夫で、東京でやりたいことがある。私は子どもたちの健康上の不安があって、島根に帰ってきましたが、私もここでの暮らしが性に合っていると気づいてしまい、東京に戻る気はなくなってしまいました」
ただし別居していると、子育てに行き詰ったときに、父親がすぐ隣にいない、といった悩みもあった。
「ふだんからこまめに連絡を取るようにしていましたが、大事なときに相手が忙しく、向き合って話ができないときは苦しかった。子どものことだけは、いっしょに話し合いながら進んでいきたいと思っていたので。もちろん近くにいると、ひと呼吸おけば何でもないことにも反応して、口論になることもあったんですけどね。近いと甘えが出ちゃうってことかな……」
親が自分の時間やしたいことを大事に思う姿勢は、子どもたちにも伝わっている。11歳だった長女は大学生となり、今は父と東京で二人暮らし。8歳だった長男は埼玉の高校で寮生活を送っているそうだ。
現在3拠点になった5人家族だが、ときには大阪や新潟など旅の目的地を集合場所にして「現地集合家族旅」をしたり、LINEで家族グループをつくり、日々の日常を共有し合ったり、良好な関係だ。
「夫婦といっても、互いに好きなことは違うし、やりたいことも考え方も違います。夫と私は、ほどよい距離で、お互いの人生を尊重しながら、子どもの人生に関わっていく同志でありたいと思っています」
離れていても大切なのは、やはり家族みんなの心が自由で健やかなこと。勝手に島根移住を決めたことが正解だったのか、10年近く疑問だったけれど、冒頭の夫からの言葉は、うれしいプレゼントでした、彼以上に私も自由に生きているから、と美由紀さんは笑顔を見せる。