• TOP
  • コラム
  • 仕事は苦役か否か? セミリタイアを「羨ましい」と思う心理の本質

コラム

2020.10.17 16:00  マネーポストWEB

仕事は苦役か否か? セミリタイアを「羨ましい」と思う心理の本質

仕事は苦役か否か?

 人は仕事をしなくては生きていけないが、果たして仕事というものは「苦役」なのか。8月31日をもって47歳でセミリタイアをしたネットニュース編集者の中川淳一郎氏は最近、20~50代の働き盛りの人々と会った時に「羨ましい」と言われることが多いのだという。20代の若手であっても「仕事が辛いです」と言い、50代の人は「まだ私は定年まで8年もあるの~! あ~、羨ましい!」などと言う。そんな同氏が今、仕事の楽しさと苦しさについて、考察する。

 * * *
「やりたいことを仕事にする」って言葉がありますが、これは無理だと思います。だって、本当にやりたいことなんて、サーフィンや映画鑑賞、ゲームだったりするわけですから。もちろんプロサーファーや映画評論家、プロゲーマーはいますが、彼らだって激しい競争の中、神経をすり減らして仕事をしているわけで、単純に「楽しい」だけでは済ませられないのでは。趣味ってものは強制されてやるものではなく、余暇の中でやったり、気晴らしにやるもので、それを本業にしてしまうとかつての「楽しい」という感覚は失われてしまうものかもしれません。

 私の仕事は「編集」「執筆」「PRのプランニング・実行」「ネットウォッチ」「講演」といったところです。コラムの執筆は楽しいと感じられますが、収入のかなりの割合を占める他の仕事については「苦役ではないけど、楽しくて仕方がない、というほどではない」感じです。

 9月以降にお会いした方々は就職や転職を経験したうえで、今の仕事をやっています。自ら方向を選んだうえで現在の仕事をしているわけですから、そこそこ「好き」だったのだろうし、会社に採用され、その部署に配属されているのだから「向いている」はず。さらには、その仕事に初期の頃は希望も見出していたはずなんですよ。それなのに「早く辞めたい」「あなたが羨ましい」と来る。

 一体これは何なんだろうか……。本来苦役ではないはずの仕事なのに、苦役だと感じてしまっている。私自身、完全に向いていない職業は分かっています。昔、喫茶店でウェイターのバイトをしたことがあるのですが、蝶ネクタイ付きの制服を着るのが嫌で仕方がなかった。こちらを客が呼ぶ時、オッサンが池の鯉を呼ぶかのごとく、顔の脇でパンパンと手を叩くのもイヤだった。「ご注文はお決まりでしょうか」といったかしこまった言葉を使うのもイヤだった。あとは、ほんの少し水をこぼし、それがスーツにはねてしまった時に「社長を出せ! このスーツは100万円もするんだ、弁償しろ!」などと言われたらどうしよう……。というわけで、私は接客業は何があってもやりたくありません。その後に始めた植木屋のバイトは、何しろ相手は職人と植物だけですから、これは場合によっては今後やってもいいかな、と思いました。

 私に「辞めたい」と言ってくる人々だって、自分に向いていない仕事は選んでいないはずなんです。そして、それなりに成果をあげている人もいるわけで、一体何がそんなに不満なのだろうか、とこの1か月半ほど思い続けてきました。

 その結果、仕事を苦役と考える本質は、一緒にやる人間のことがあまり好きなのではないのではないか、という仮説に辿り着きました。私自身は、フリーランスということもあり、人事異動で望まぬ部署や合わない人と同じ職場に強制的に行かされることはありません。気が合わない人とは一度仕事したらおさらば。結局、長く一緒に仕事をした方々のことが好きなんですよ。

 だから、業務が「楽しくて仕方がない」といったものではないにしても、仲間と一緒にプロジェクトを推進していくこと自体は楽しかったりもします。その後の飲み会も楽しいですしね。そこそこ向いているはずなのに、仕事仲間との人間関係がその仕事を「苦役」と化すのであれば、極論ですが、一旦会社から離れて独立してしまうのも手かもしれません。そうすると、かつての希望に満ちた楽しい仕事人生が戻ってくるのでは、とも感じます。

【プロフィール】
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ライター。一橋大学卒業後、博報堂入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。最新刊は『恥ずかしい人たち』(新潮新書)。

関連記事

トピックス