「東大に入らなければ、銀行に入ることもなかった」
人事部から休職を命じられた時には、日に何度も自殺を考えたという。「ドアノブにタオルを引っかけて首を吊ろうとしたことがある」という告白には胸が痛んだ。休職したことで、復職後の給料は同期の約8割、年収560万円にまで落ちてしまった。現在もうつ病は完全には治っておらず、向精神薬と睡眠薬が手放せない。
「メンタルが綱渡り状態だから、いい年をして結婚もできないよ。東大に入るための塾やら予備校やらにいかせてくれた親には、心の底から申し訳なく思う。東大なんか入らなきゃよかったな。そしたら、銀行に入ることもなかった」
銀行の経営は今の時代、もはや安泰ではない。規制緩和で増え続けるネット銀行との手数料競争やマイナス金利政策などの影響で、メガバンクは今、個人客を切って少数の金持ちだけを相手にする方針を立てている。振込手数料の値上げや口座維持手数料の導入はその一環だ。最近、みずほ銀行が立て続けに発表した「副業解禁」「3割の事務員を営業に配置転換」「週休3~4日制」といった新制度も、人員の削減の下準備と言える。
最後にK氏は、これから銀行に就職しようとしている後輩たちに向けてこう言った。
「俺のように、『リストラの心配がない』から銀行に就職しようとする学生はもういないかもしれないけど、銀行に入れば自分が泥臭い営業をやらされることも想定しておいてほしい。その類いの仕事は東大卒にはつらいよ」
東大法学部から銀行に就職し壊れかけている1人の先輩が、若い後輩たちへ力を振りしぼって送るメッセージである。
【池田渓】
1982年兵庫県生まれ。東京大学農学部卒、同大学院農学生命科学研究科修士課程修了、博士課程中退。フリーランスの書籍ライター。共同事務所「スタジオ大四畳半」在籍。近著に『東大なんか入らなきゃよかった 誰も教えてくれなかった不都合な話』(飛鳥新社)がある。