ウイスキーを楽しむ人が増えている。サントリーホールディングス(HD)が約60億円を投じて近江エージングセラー(滋賀県東近江市)にウイスキーの原酒を熟成させるための貯蔵庫を新たに1棟を建設することを、『日本経済新聞』(10月21日付)が伝えている。同記事には「国内外での需要増に対応する」とあり、あまり事情を知らない人にとってはウイスキーの需要が急増して慌てて対応を決めたかのようにも読める。
サントリーHD広報部に確認すると、「今回、急に生産設備の増強をはじめたわけではありません」との答えが戻ってきた。同社では数年前から、山崎・白州蒸溜所の蒸溜釜の増設、白州蒸溜所・近江貯蔵庫の増設と、増強を進めてきているのだ。生産設備の増強に取り組みだしたのは、2007年から手掛けた酎ハイにヒントを得た「角ハイボール」がきっかけになっている。簡単に言えば、同社の定番ともいえる「サントリー角瓶」の炭酸割りである。
最初は飲料店向けから始まった。ただ炭酸で割るだけではなく、これにレモン果汁を入れるのが“ミソ”だった。より飲みやすくなり、それこそ酎ハイのようにグビグビ飲める。
これは若手社員の発想だったが、製造現場のベテランたちは「邪道だ」と大反対したらしい。彼らにとってウイスキーはがぶ飲みするものでもないし、果汁を入れるなど論外だったからだ。これを若手が押し切って、角ハイボールが誕生した。ベテランたちの予想を裏切って、角ハイボールはたちまち消費者に受け入れられた。缶が発売されると大ヒットとなったことは、いまさら言うまでもない。
このヒットが、ウイスキー全体の売上も引っ張っていくことになる。1983年をピークに低迷を続けていた日本のウイスキー市場が、一気に息を吹き返した。
あまりの売れ行きに、原酒不足が深刻な状態となっていく。2018年5月には、サントリーHDの看板商品ともいえる「白州12年」と「響17年」を原酒不足のため販売休止するとの発表がされて話題となった。この事態に、サントリーHDも増産を決意することになる。