国内

かつて「飛び降り巻き添え事件」の現場に居合わせた人の無念

待ち合わせにもよく利用される大阪・梅田の「HEP FIVE(ヘップファイブ)」

待ち合わせにもよく利用される大阪・梅田の「HEP FIVE(ヘップファイブ)」

 北海道拓殖銀行と山一證券が倒産した翌年の1998年、日本の自殺者数は前年を約8千人上回り3万人の大台を超え、2011年まで3万人超を記録し続けた。2006年に制定された自殺対策基本法にもとづく様々な施策や、専門家や関係者たちの様々な活動、そして雇用状況が上向きになったおかげか、2019年は2万169人にまで減少した(警視庁調べ)。ところが、新型コロナウイルスが猛威を振るい始めた2020年、風向きが微妙に変わる気配が出始めている。俳人で著作家の日野百草氏が、今回は、報道によって無意識のうちに封印していた13年前の類似の事故の記憶を呼び覚まされた人の複雑な思いについてレポートする。

 * * *
「あのときの記憶が蘇りましたね、日野さんも覚えてるでしょ」

 私の旧知の編集者、かつて池袋で編集プロダクションを立ち上げたことのある風間卓人さん(仮名・50代)が電話口で当時 ―― 13年前の事件について話してくれた。現在は諸事情から埼玉県内の自宅兼事務所で仕事を続けているが、2007年、出版社の経営不振からリストラに遭い独立。それでも悲壮感などなく、紙に固執することもなく携帯コミック制作の受託に目をつけて順風な船出であった。

「飛び降りて来てドカーン! って。パルコのとこですよ、日野さんのとこ行く途中だった」

 よく覚えている。私も自宅とは別に寝床兼趣味の部屋を南池袋に借りていた。南池袋とは言っても雑司が谷霊園に近い風呂なしトイレ共同の木造アパート。いまは駐車場になっているが、風間さんも何度か訪ねて来たことがある。その日も一緒に昼飯を食べる予定だった。

「まさか人間が降ってくるなんて思いませんよ、車がぶつかったような大きな音で、てっきり交通事故でもあったのかと思ったら後ろで人が倒れてた」

 池袋東口駅前の明治通りは交通量も人出も尋常でない。よく事故が起こる場所で私も車で信号待ちをしていたら営業車に追突された。追突してきた営業マン曰く考え事をしていたという。幸いコツンとされただけで大したことはなかったが、赤信号の列の後ろについているだけでも理不尽な事故に遭う。しかし風間さんの遭遇した理不尽はこんなものではない。空から人が降ってきて、路上の人を直撃した。13年前、そのただ中にいた。

「だから大阪で起きた事件のニュースを見たら思い出しちゃって。まったくおんなじですから」

「大阪で起きた事件」とは10月23日、大阪梅田駅の「HEP FIVE」屋上から17歳の男子高校生が飛び降りて路上の女子大学生に激突、高校生は即死、被害者の女子大学生も翌日死亡した事件のことだ。そして「まったくおんなじ」とは2007年、東京池袋駅の「パルコ」屋上からの飛び降り事件のことだ。

関連キーワード

関連記事

トピックス

NHK中川安奈アナウンサー(本人のインスタグラムより)
《広島局に突如登場》“けしからんインスタ”の中川安奈アナ、写真投稿に異変 社員からは「どうしたの?」の声
NEWSポストセブン
カラオケ大会を開催した中条きよし・維新参院議員
中条きよし・維新参院議員 芸能活動引退のはずが「カラオケ大会」で“おひねり営業”の現場
NEWSポストセブン
コーチェラの出演を終え、「すごく刺激なりました。最高でした!」とコメントした平野
コーチェラ出演のNumber_i、現地音楽関係者は驚きの称賛で「世界進出は思ったより早く進む」の声 ロスの空港では大勢のファンに神対応も
女性セブン
文房具店「Paper Plant」内で取材を受けてくれたフリーディアさん
《タレント・元こずえ鈴が華麗なる転身》LA在住「ドジャー・スタジアム」近隣でショップ経営「大谷選手の入団後はお客さんがたくさん来るようになりました」
NEWSポストセブン
元通訳の水谷氏には追起訴の可能性も出てきた
【明らかになった水原一平容疑者の手口】大谷翔平の口座を第三者の目が及ばないように工作か 仲介した仕事でのピンハネ疑惑も
女性セブン
襲撃翌日には、大分で参院補選の応援演説に立った(時事通信フォト)
「犯人は黙秘」「動機は不明」の岸田首相襲撃テロから1年 各県警に「専門部署」新設、警備強化で「選挙演説のスキ」は埋められるのか
NEWSポストセブン
歌う中森明菜
《独占告白》中森明菜と“36年絶縁”の実兄が語る「家族断絶」とエール、「いまこそ伝えたいことが山ほどある」
女性セブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン
羽生結弦の元妻・末延麻裕子がテレビ出演
《離婚後初めて》羽生結弦の元妻・末延麻裕子さんがTV生出演 饒舌なトークを披露も唯一口を閉ざした話題
女性セブン
古手川祐子
《独占》事実上の“引退状態”にある古手川祐子、娘が語る“意外な今”「気力も体力も衰えてしまったみたいで…」
女性セブン
ドジャース・大谷翔平選手、元通訳の水原一平容疑者
《真美子さんを守る》水原一平氏の“最後の悪あがき”を拒否した大谷翔平 直前に見せていた「ホテルでの覚悟溢れる行動」
NEWSポストセブン
5月31日付でJTマーヴェラスから退部となった吉原知子監督(時事通信フォト)
《女子バレー元日本代表主将が電撃退部の真相》「Vリーグ優勝5回」の功労者が「監督クビ」の背景と今後の去就
NEWSポストセブン