アリゾナ州は、前回トランプ氏が勝ったことでもわかる通り、民主党にも共和党にもチャンスのあるスイング・ステートの一つだ。慌てて各局の特番もチェックしたが、どこもそんなことは言っていない。いわば、FOXのスクープである。それも、トランプ氏に不利な内容なので余計に驚いた。事前に報道されていた通り、今回は郵便投票を含む期日前投票が史上最も多くなっており、その結果は当日分の開票のあとに足される仕組みになっている州がほとんどだったから、いくらなんでも早すぎると感じたのである。余計な心配だが、筆者は、この担当者はクビになるんじゃないかと感じた。
彼の名はアーノン・ミシュキン氏。FOXニュースのディシジョン・デスク(結果判定室)のデータ・チームのリーダーで、様々な統計的手法を駆使して複雑な予測モデルを組み立てる専門家である。マニアックと表現するのがぴったりの“選挙予測オタク”だ。この分野ではなかなかの有名人で、ウォール・ストリート・ジャーナルなど、他メディアから取材を受けることも多い。
さらに翌4日朝には、やはりFOXの番組で、当確が出ていない残る各州のうち、勝敗を決するキイ・ステートについて、「トランプ氏が勝利するには、ジョージア、ノースカロライナ、ペンシルベニアの3州すべてで勝つことが必須で、それでも恐らく勝利に届かないから、さらにミシガン、ウィスコンシンのどちらかを獲得する必要がある。が、ミシガンとウィスコンシンはバイデンだ。トランプリードのペンシルベニアも期日前投票が加わるとわからない」と、他局に先んじて「トランプ敗北」を匂わす分析を語って、さらに視聴者を驚かせたのである。
ミシュキン氏の“予言”のとおり、アリゾナは僅差でバイデン氏がリードし(本稿執筆時点でまだ当確を打つメディアはない)、ミシガン、ウィスコンシンでは後にバイデン当確が報じられた。ペンシルベニアは時間を追うごとに接戦になってきた。驚くべき分析と予測の正確さである。
が、筆者の心配は当たるかもしれない。ニューヨーク・タイムズの翌日の報道によれば、FOXがいち早く「トランプ落選」を報じたことについて、トランプ大統領はひどく怒っているそうである。