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2020.11.13 07:00  SUUMOジャーナル

団地にできた1000冊の本がある「シェアハウス」。暮らしをのぞいてみた!

(写真提供/日本総合住生活株式会社)

昭和40年代、50年代に多くつくられた団地では、建物の高経年化や住民の高齢化が進む中、新しい活気を生みだそうと、さまざまな試みがなされています。今年3月、足立区に誕生した「読む団地」ジェイヴェルデ大谷田は、そのなかでもひときわユニークです。使われていなかった1階の空間をリノベーションしてシェアハウスとし、共同リビングには1000冊以上の本を配置、また、団地の居住者や地域の方と交流を図れる場としてコミュニティラウンジ『BOOKMARK』もつくりました。住み心地と暮らしぶり、狙いを運営会社とシェアハウス入居者に聞いてきました。   
築43年の大規模団地の一角に「シェアハウス」が誕生漫画、料理、旅、エッセイ、推理小説など、さまざまなジャンルがあり、共通の関心があれば会話が広がったり、貸し借りをしたりと、人と人とをつないでくれる「本」。「あなたのイチオシは?」と聞かれたら、思わず語りたくなってしまうことでしょう。

そんな本を1000冊以上もそろえたシェアハウスが、今年3月、足立区大谷田一丁目団地に誕生しました。その名前も、「読む団地」ジェイヴェルデ大谷田。なんだか名称だけでもワクワクしますが、コロナ禍にめげず、すでに多くの入居希望者が集い、暮らしています。でも、なぜ団地の一角にブックリビング付きのシェアハウスをつくったのでしょうか。企画・運営をした日本総合住生活株式会社に聞いてみました。

2020年度グッドデザイン賞を受賞しました(写真提供/日本総合住生活株式会社)

「大谷田一丁目団地は昭和52年築、全10棟、1374戸からなる大規模団地です。シェアハウスの場所は足立区が保有し、もともとは保育士の寮でしたが、足立区が利活用事業として事業者を公募していたため、弊社が手をあげたのです」と話すのは、日本総合住生活株式会社の奥寺高清さん。

お話を伺った奥寺高清さん(写真提供/日本総合住生活株式会社)

日本総合住生活株式会社は、UR都市機構の団地の管理などを手掛けている会社で、現在は団地のリブランディング、魅力を知ってもらう取り組みにも力を入れています。
「もともとは寮だったこともあり、リノベしてシェアハウスにし、若い世代に団地暮らしの楽しさを知ってもらいたいという観点から、若者向けシェアハウスにコンセプトが決まりました。どこの団地もそうですが、建物・居住者ともに高齢化が進んでいます。若い世代が外から入ってくることで、コミュニティを活性化したいという狙いがあったのです」(奥寺さん)

シェアハウスとコミュニティラウンジに置いた「本」が交流を生むただ、シェアハウスをつくるだけでは、シェアハウスに住んでいる人同士の交流は生まれても、団地居住者や地域の方との交流は生まれないものでしょう。そこできっかけになるのが「本」です。

「本はシェアハウスの共用リビングに1000冊ほど常時そろえ、入れ替えを行います。選書は、カフェや美容室など、本屋にこだわらず広く本に触れる場をつくり親しんでもらう活動をしている個人のtsugubooksさん。また、コミュニティラウンジ『BOOKMARK』は、本や食をテーマにしたイベントなどをきっかけに団地居住者や地域の方、シェアハウスの入居者が交流を図れる場としてつくりました。コロナウイルスの影響で自粛していましたが、9月にやっとイベント初開催となりました」(奥寺さん)

シェアハウスの共用リビングにある本棚。テーマごとにゆるやかにまとまっていいて、眺めているうちに自然と興味の範囲が広がっていきます(写真提供/日本総合住生活株式会社)

取材に訪れた10月3日は、「食」をテーマにした本のイベントが開催されていました。団地の方々、地域の方々も気になっていたようで、「ココ、気になっていたの、立ち寄っていい?」「今日は何をしているの~?」とさっそく、交流が生まれていました。集まる人の年齢も性別もそれぞれですが、本を手に話がはずんでいるのを見ると、「本ってこんなに人を結びつけるんだ」と感慨がわいてきます。

団地の一角にできたコミュニティラウンジ『BOOKMARK』で開催されたイベントの様子(写真提供/日本総合住生活株式会社)

コミュニティラウンジで開催されるイベントの参加はシェアハウス入居者、団地居住者、地域の方など誰でもOK。「食」に関するオススメの本を持ち寄り、コメントを書いて並べます(写真提供/日本総合住生活株式会社)

「本は持ち運びもしやすくて、人の物でも抵抗なく触ることができるもの。本の気軽な貸し借りから緩やかな人づきあいが育まれるのでは」というアイデアから、今回の「読む団地」がはじまったといいますが、まさに狙い通りといえそうです。

その住み心地は?「テレワークもしやすくて、たいくつしない」それでは、シェアハウス内での交流や暮らしはどのようなものなのでしょうか。6月からこのシェアハウスで暮らしている川上望さん(26歳)に聞いてみました。

川上望さん(撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「本があるシェアハウスなので、本や読書が大好きな人ばかりが集まっているのかと思っていましたが、そうではなく、仲良くなってからさらりと『何の本を読んでいるの?』と会話することが多いですね」とあかしてくれます。では、シェアハウスの住み心地はいかがでしょうか。

「建物はリノベ済みで、きれいで住みやすいですね。セキュリティも行き届いていて、家具家電も備え付けなので、身軽でいられます。仕事はテレワークが多いんですが、部屋ではなく共用リビングでもでき、本もあるのでよい気分転換になります。ここにいれば退屈しません」とそのメリットを話します。

川上さんがシェアハウスに住むようになったきっかけ、団地のイメージについても聞いてみました。
「身軽で暮らしたいこと、働き方を考えて、仕事する場所とくつろぐ場所をわけたかったので、シェアハウスを探していて、この物件に出会いました。見学したときの第一印象で『ここだな!』と思ったことを覚えています。団地には特段イメージがなく、真っ白い箱という印象でした。シェアハウスは、何もないと交流が生まれないのは分かっていたので、『本』のようにコミュニケーションのきっかけがあるのはよいなと思いました。団地の居住者と交流はまだできていませんが、多様な世代、年代の人と触れあいたいな、というのはあります」(川上さん)

就職活動などの経験を振り返ったときに、その当時、多様な世代の人たちと接する機会があれば、「どんな企業や働き方があるのか、もっと早く知ることができた」というのがその理由だそうです。確かに多様な世代、生き方に触れたい、というニーズは若い世代ほどあるかもしれません。

川上さんが暮らすAタイプの部屋。ベッドや机、椅子は備え付けのもの(画像提供/川上望さん)

各自の部屋の扉の外にあり、お気に入りを紹介できる自分専用本棚「マイブック図書館」(画像提供/川上望さん)

新婚生活をシェアハウスで「居心地の良さを実感しています」もう一組、シェアハウスで暮らしているカップルにお話を伺いました。実はそれぞれ、このシェアハウスの別の部屋で暮らしていたものの、秋に結婚の運びとなり、10月から2人暮らしできる部屋でともに暮らし始めたばかりだといいます。新婚生活をシェアハウスで、というのも今どきですね。

佐古田慎さん(右)、佐古田羽蘭さん(左)夫妻(画像提供/佐古田慎さん)

「このシェアハウスに来る前は、別々の場所でひとり暮らしをしていたんですが、僕がどうしてもシェアハウスで暮らしてみたくて、結婚したら難しいだろうと、思い切ってココを見つけて、暮らしたいと言ったのが始まりです」(佐古田慎さん)

それなら「私も暮らす!」ということで妻の羽蘭さんも続き、シェアハウス内の別々の部屋で暮らすこととなったとか。ちなみにシェアハウスの住民には、2人の関係性は隠していたものの、すぐにつきあっていることがバレてしまったそう。では、2人からみたシェアハウスや団地の良さはどこにあるのでしょうか。

「実は前も団地で生活していたのですが、想像以上に住みやすいんですよね、団地って。スーパー、病院がそろっていて、敷地にもゆとりがある。生活しやすいのは分かっていたので、不安はありませんでした」と羽蘭さん。慎さんは念願のシェアハウス生活が楽しいようです。

「ひとり暮らしをしているとワンルームの部屋に帰って、ごはんつくって食べて、寝ての繰り返しになるでしょう。それがしんどくて。ここには『マイブック図書館』という、自分のお気に入りの本を置いておける場所があるんですが、料理本をおいていたところ、声をかけてもらえて。みんなでスパイスカレーをつくって食べたりしています。シェアハウスの入居者と、話して食べるのが楽しいですね」(慎さん)といいます。

佐古田夫妻が住むCタイプの部屋。2人で住むことが可能です(画像提供/佐古田慎さん)

団地のもつ良さと課題。「本」が解決のいとぐちになる?最後に、団地の良さと課題について、奥寺さんに聞いてみました。

「団地は住んでもらうと良さが分かるというお声をよく聞きます。ここは最寄りの北綾瀬駅から徒歩14分と距離はありますが、公園や医療施設、スーパー、コンビニ、郵便局などが近くにあって、不便はありません。大谷田一丁目団地内でランニングできるくらい、今どきの建物にはないゆとりがあり、暮らしやすさを考えぬいて設計された良さがあると思っています。今回のようなシェアハウスをきっかけにして、団地の良さを体験してもらい、シェアハウス卒業後に団地の一室で暮らしてもらう、そんな循環ができたらいいなと思っています」(奥寺さん)

課題にはどのような点があるのでしょうか。
「今まで、団地居住者同士で交流はあっても、地域の方と団地居住者との交流の場がなかなかなかったんですね。しかも高齢化していくと、余計に団地内コミュニティも活発になりにくくなってしまう。だからこそ、『BOOKMARK』のように、団地の中、さらには地域の方とのゆるやかなつながりの場所をつくり、交流の場所になれたらいいなと思っています」(奥寺さん) 

新型コロナウイルスの影響で、『BOOKMARK』は計画時に思い描いていたような活用が今は難しいかもしれません。ただ、取材中、本を片手に人が会話したいというのは、実に自然な気持ちなのだなと痛感しました。どのようなかたちになるかは分かりませんが、本をきっかけに、シェアハウスや団地、地域の関係がより豊かなものになってほしい。本好きの一人として、そう願うばかりです。

●取材協力(※50音順)
日本総合住生活株式会社 住生活事業計画部事業計画課
読む団地
(嘉屋 恭子)

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