バイデンはアイスクリームが大好きだった
杉村:バイデンさん、甘党なんですか!
岸田:うん。アイスクリームが大好きでしたよ。
杉村:いや~、ぼくが岸田さんの立場だったら、「バイデンのことだったら、一番よく知っているオレにまかせろ!」と永田町で言いまくりますよ。
岸田:ま~、でも、直接のカウンターパートは麻生副総理なんですよ。
杉村:いやいや、でも戦後最長の外務大臣として、バイデン副大統領(当時)とも実際食事をしたり、会談をしているじゃないですか。少なくとも、「いまの日本なら、菅総理や茂木外相よりオレのほうがはるかにバイデンとのパイプ持っている!」って、ぼくだったらいいまくりますけどね。
岸田:うーん、ま、そりゃそうだよ。
杉村:やっと、「そりゃそうだよ」と言いってくれました(笑い)。もう、「日本でバイデンを最も知るのは岸田文雄である」と断言してください!
岸田:まあ、いちばんよく知っているかどうかは別として、外務大臣として長きにわたって付き合った経験があるのは事実です。これからバイデンさんが大統領になると、外交問題を担当するチームを組成するために、オバマ大統領時代の私のカウンターパートであったジョン・ケリー元国務長官だとかケネディ元大使などとも相談されるでしょうが、私は、その二人とは今でも緊密な関係を維持しています。その意味では、いまの日本の政権よりはバイデンさんとの関係で一日の長はあると思います。
杉村:政治家としてのバイデンさんを率直にどう評価されますか。
岸田:良識派だと思いますよ。話をしてても、何ら違和感はなかった。トランプ大統領と自由貿易や環境の議論をすることは難しいかもしれませんが、バイデンさんなら同じ土俵に上がって話をすることが十分可能だと思います。
オバマが抱いていた核兵器への危機感
杉村:広島選出の岸田さんは「核廃絶」を訴えています。バイデンさんも今年8月、広島への原爆投下75周年に合わせて、「核兵器のない世界に近づくよう取り組む」との声明を出しました。ただお叱りを受けるでしょうが、ぼくはいま、現実的に生活のなかで核の不安を感じていません。なぜ核廃絶が必要なのでしょうか。
岸田:直接の不安がなくても、核兵器は世界の安全保障の根幹を左右する問題です。核兵器をよく理解しないと、アメリカと中国、ロシアの関係や、なぜ北朝鮮があれだけ大きな顔をできるか理解できません。しかも今年は被爆75年、核兵器不拡散条約(NPT)ができて50年の節目の年ですが、アメリカや中国、ロシアはどんどん核廃絶に後ろ向きになっています。歴史を振り返っても、核兵器が極めて危険な状況にあるのは間違いありません。
杉村:2016年に当時のオバマ大統領が広島を訪問した際、外務大臣だった岸田さんは間近でオバマのスピーチを聞きました。
岸田:私の地元でもある被爆地「ヒロシマ」で、世界最大の核保有国のリーダーが「核をなくすべき」と言った歴史的な演説で、大きな一歩だと感じました。ただしアメリカは単に理想を求めているわけではありません。9.11で世界貿易センタービルに航空機が突っ込み 3000~4000人が命を落としましたが、核兵器だったら犠牲者は30万人を超えたはずです。しかもいま核兵器は国家でなくとも、優秀な学生であれば、カネと設備を与えたら作れてしまう。9.11でその危険に直面したからこそアメリカは自分の国の国民を守るために核兵器そのものをなくすことが必要と考えた。
杉村:その考え方が広島でのオバマ演説につながるわけですね。
岸田:オバマは間違いなくそう思っています。個人の思いだけでなく、アメリカの安全保障の専門家が真剣に考えて、国として核廃絶の方向性を目指した。美しい理想に基づいて核をなくそうという甘い考えではなく、アメリカ国民を守るには最終的に核兵器をなくす必要があるとの危機感です。日本にはそこまでの切実さはありませんが、一方で原爆投下によって悲惨な目にあった広島と長崎の市民はじめ、多くの国民が核兵器はなくすべきだと思っています。現実的な必要性と、人道的にああいうものは許せないという思いが一体になって初めて、現実を動かすことができます。