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2020.11.20 07:00  SUUMOジャーナル

大田区「池上」が進化中!リノベで街の魅力を再発掘

(写真撮影/相馬ミナ)

日蓮宗の大本山「池上本門寺」が13世紀に建立されて以来、門前町としてにぎわってきた東京都大田区池上。2019年ころから、地域の持続的な発展を推進する「池上エリアリノベーションプロジェクト」が進行中で、歴史ある街の各所に新たな感性が芽吹いている。大田区と共同で同プロジェクトに取り組む東急株式会社の磯辺陽介さんの案内で、魅力を増す池上の街歩きをしてみよう!
街リノベは目的ではなく手段、プロジェクトで池上のポテンシャルを引き出す3両編成の電車がコトンコトンと行き交う東急池上線。五反田と蒲田という二つの繁華街を繋いでいるにも関わらず、沿線はローカル感が漂う。もともと池上本門寺の参拝客のために生まれた路線で、池上はその中心的存在だ。

(写真撮影/相馬ミナ)

池上のシンボル、池上本門寺。宗祖日蓮聖人の命日に行われる法要「お会式(おえしき)」は毎年10月11~13日の3日間執り行われ、30万人にも及ぶ参詣者で街がにぎわう(写真撮影/相馬ミナ)

2020年7月に生まれ変わった池上駅構内には、木がふんだんに使われ、電車を降りると木の香りがする。池上本門寺の参道に繋がるようなイメージでデザインされたという自由通路を抜け、駅北口から池上本門寺方面に向かおう。駅前には、池上名物・くず餅の老舗「浅野屋 」が店を構える。

「池上は、くず餅発祥の地とも言われていて、老舗のくず餅屋さんが何軒もあるんですよ」と磯辺さんが教えてくれた。池上が地元の方には当たり前の風景かもしれないが、コンパクトなこの街の中に数百年続くお店が点在しているのは、すごいことではないだろうか。

池上駅前。駅舎は構内踏切がある平屋から、地上5階建てのビルに生まれ変わった。駅ビルのエトモ池上は2021年春に開業予定(写真撮影/相馬ミナ)

「池上は「池上本門寺」に約700年寄り添ってできた街です。もともと街はありますし、 “まちづくり”という単語がおこがましいと思っているんですが……」と磯辺さんは前置きしつつ、「『池上エリアリノベーションプロジェクト』は、人や場所、歴史、文化などの地域資源を、再発掘・再接続・再発信によって活かすまちづくりの取り組みです」と説明してくれた。

2017年3月、池上で東急主催のリノベーションスクール(※)を実施したことをきっかけに、プロジェクトが始動した。数ある東急線沿線の街の中から池上を選んだ理由を尋ねると、「池上駅をリニューアル予定だったこともあるのですが、池上のヒューマンスケールというか、こぢんまりとしていて血が通っている感じが、リノベーションスクールの世界観と合いそうだと感じたんです」と磯辺さん。

※全国各地で開催される、まちなかに実在する遊休不動産を対象とし、エリア再生のためのビジネスプランを提案し実現させていく実践型スクール

場をつくって終わりではなく、まちづくりに取り組む人をサポート池上駅北口から池上本門寺へ向かって延びる池上本門寺通り商店会。旧参道にあたり、「SANDO(サンド)」(写真右側の建物)はその入り口にある(写真撮影/相馬ミナ)

磯辺さんの案内でまず訪れたのが、「SANDO BY WEMON PROJECTS(サンド バイ エモン プロジェクツ、以下SANDO)」。池上エリアリノベーションプロジェクトの一環として誕生した、“コーヒーのある風景”をコンセプトに活動するアーティストユニット「L PACK.(エルパック)」と、建築家の敷浪一哉さんが運営する、カフェでありプロジェクトの拠点だ。

「『SANDO』のことを普段僕らは、“カフェを装っている”と言っているんです」と磯辺さん。どういうことか尋ねると、「お客さんとの会話から地域資源を見つけたり、外から訪れた人とマッチングをしたり、カフェ以外の役割も担っているんです」という答えが返ってきた。

「SANDO」の店内。カウンターではテレワークをする若者、テーブル席ではゆったり腰掛けて談笑する年配の方など、幅広い世代が思い思いに過ごしていた(写真撮影/相馬ミナ)

「パウンドケーキセット」(900円・税込)でひと息(写真撮影/相馬ミナ)

「SANDO」は、東急と大田区による街づくり勉強会の会場にもなっている。ウィズコロナや事業継承などをテーマに、ゲストを招き、参加者である若手事業者へヒントや気づきの場になればと不定期に開催。場をつくって終わりではなく、池上エリアが持続的に発展するためのサポートの在り方を模索しているそう。

「SANDO」では、フリーペーパー「HOTSANDO」を月に1回発行。情報発信だけでなく、取材を通して地域資源を発掘する役割も(写真撮影/相馬ミナ)

「池上エリアリノベーションプロジェクト」開始からわずか約1年半にも関わらず、すでにリノベーション物件が3事例開業。「ここまで早く事業が動いたのは、池上が歴史ある街であることが大きいのでは」と磯辺さんは分析する。続いてはその3事例を見せてもらおう。

多才な夫婦が目指す、地域と人とが繋がる拠点「つながるwacca」1軒目は「池上本門寺通り商店会」を進んで、「つながるwacca」へ。介護福祉士の社交ダンサー・井上隆之さんと、管理栄養士のヨガインストラクター・千尋さん夫妻が運営する多目的スタジオだ。

池上本門寺通り商店会の様子。呉服店や煎餅店など、古くからあるお店が今も元気に営業している(写真撮影/相馬ミナ)

地場の不動産会社が所有するスペースを題材に、街への思いを持つ開業希望の人たちとマッチングさせる企画「KUMU KUMU」に、自分・人・地域がつながる場として井上さん夫妻が提案。大人向けはもちろん赤ちゃん と一緒にできるヨガをはじめ、食イベントや親子カフェ、マルシェなどが行われている。

コインランドリー横の空きスペースをリノベーションして誕生した「つながる wacca」。取材に訪れた際は「ちょこっとカフェ」の営業中(写真撮影/相馬ミナ)

2020年春に開業予定だったが、コロナの影響で8月に延びた。それでも「その分ゆっくりしたペースで準備を積み上げられたかな」と隆之さん。「夫がポジティブなので私も前向きになれました」と千尋さんも笑う。

とにかく笑顔が素敵なお二人で、話しているとこちらも気持ちが明るくなる。そんな井上さん夫妻の元にふらっと集まるご近所さん同士が、自然と繋がれる、そんな空気感に包まれた場だ。

娘さんを抱っこする井上隆之さんと千尋さん。「池上の“人”が好きです。人と繋がりやすいのもいいですね」と千尋さん(写真撮影/相馬ミナ)

池上愛が偶然マッチして生まれたシェアスペース「たくらみ荘」続いては、池上本門寺通り商店会の一本お隣、池上本通り商店会の乾物店「綱島商店」2階に入る「たくらみ荘」。探究学習塾を軸としたシェアスペースだ。新しい学びをプロデュースするa.school(エイ スクール)が運営している。

誕生のきっかけは、先ほどご紹介した「SANDO」が発行するフリーペーパー「HOTSANDO」の別企画で「綱島商店」を取材したことから。プロジェクトについて話す中で、「綱島商店」の方が「実はうちの2階が空いているから、街のためなら」と空間を提供してくれたのだそう。

(画像提供/東急)

「たくらみ荘」のビフォーアフター。天井や壁を取り払って、さまざまな使い方ができる開放的な空間に(画像提供/東急)

「SANDO」の一角で時折開講していたエイスクールが、池上で本格出店を検討していたところ、条件がマッチ。ある職業になりきりってさまざまなプロジェクトに取り組む「なりきりラボ」や仕事で使われる 生きた算数を学ぶ「おしごと算数」といった街を題材にした小学生向けの授業を中心に、多世代が学ぶ機会を提供している。

池上本門寺近くを流れる呑川。散歩コースや小学校の通学路になっていて、駅から少し距離があるものの人通りは多い(写真撮影/相馬ミナ)

本を媒介にした社交の場「ブックスタジオ」最後に訪れたのは、呑川沿いの「ブックスタジオ」。池上に本屋がなかったことからつくられたシェア本屋で、本棚の一枠分をそれぞれひとつの小さな本屋と見立て、各棚店主が当番制のような形で店番も担当し運営にも関わる 仕組みだ。

池上エリアリノベーションプロジェクトでは、本を媒介にした地域の交流促進の場をつくろうと、吉祥寺にある「ブックマンション」でこのシステムを運営していた中西功さんに協力を依頼。
「ブックスタジオ」は、同時期に 立ち上げの動きがあった、「ノミガワスタジオ(ギャラリー&イベントスペース)」のコンテンツのひとつとしてオープンした。

ノミガワスタジオは、動画配信スタジオ「堤方4306」とランドスケープデザイン設計事務所「スタジオテラ」 の共同事業。堤方4306の安部啓祐さんとスタジオテラの石井秀幸さんが、「ブックマンション」の趣旨に賛同したために、マッチングに至った。

30cm×30cmの棚ひとつ一つが、店主の個性溢れる小さな本屋。運営を始めて2カ月ほど、お客さんや場に合わせて 本 を セレクトする棚店主がいたり、棚店主同士の交流もあったりするそう(写真撮影/相馬ミナ)

2020年9月にオープンして、取材日時点では約2カ月が経過したところ。金・土曜日の週2回しか営業していないにも関わらず、40ある本棚の半分ほどが埋まり、すでにリピーターの姿が見受けられた。

「コロナの影響で準備期間が延びたんですけど、その間、お店の前を通る方が“ここはなんぞや”と気になっていてくれたようで」と、石井さん。客層は、お散歩されている年配の方がふらっと訪れたり、親子が中でゆっくり過ごしたりというのが多いそう。無料で気軽に利用することができるのが魅力だ。

左から、堤方4306の安部啓祐さん、スタジオテラの石井秀幸さん、野田亜木子さん。「地元の人間ではありませんが、地域の人からフラットに接してもらえますし、その緩さが住みやすさに繋がっていると思います」と石井さん(写真撮影/相馬ミナ)

「店番を担当している店主さんは、テーブルを使って展示や販売、ワークショップなど1DAYギャラリーとして利用していただけることもあって、本以外の表現の場となって楽しんでくれているんじゃないですかね 」(石井さん)

安部さんも「僕らは本業のデザイン、動画配信、建築設計事務所の傍「ブックスタジオ」を運営しています。100%営利目的での運営ではないことが、ここの空気感に繋がっているのかもしれません。また、長く続けられるように、自分たちもなるべく無理をしないように心がけています。合言葉は“無理をしない”です」と話す。

「ブックスタジオ」そして運営の皆さんもすっかり街に溶け込んでいて、インタビュー中も通りかかる人々から次々と声を掛けられていた。

取材日には棚店主の息子さんが子ども店長となり、好きな鉄道をテーマにした展示を開催(写真撮影/相馬ミナ)

子ども店長が制作した池上駅の変遷をまとめた本。彼の池上駅への愛に感動した磯辺さんが第1号の購入者に(写真撮影/相馬ミナ)

「池上エリアリノベーションプロジェクト」にとても影響を受けたと話す石井さん。仕事でいろんな街の地域交流の場をつくったりしているものの、自分が住む街は平和で問題ないと思っていたというが、「住む街が楽しかったらもっといいんじゃないのと最近は思うようになりました。コロナ禍の影響と相まって、例えば街の歴史を学んだり、お店を開拓したりして”自分の街の解像度”をどう上げていくか、楽しさが長く続く方法などを同時に考えるようになって。磯辺さんたちは池上にどんな人がいるかというのを顕在化してくれていると思うんです。困ったらあの人と繋がろうかなと思えますし、この街で暮らす楽しさが増しました」

池上を案内してくださった磯辺さん。街歩きが大好きで、コロナの影響が出る前は、池上の街歩きを企画していたそう(写真撮影/相馬ミナ)

訪れた先々で感じたのは、利用者が子どもからお年寄りまで世代に偏りがなく、「池上エリアリノベーションプロジェクト」が幅広い層に受け入れられていること。ぽっとできた新しいものではなく、街の資源をパッチワークしてつくられたお店や施設なので、池上の人々に馴染んでいるのだと感じた。

そして何より重要なのは、街を想う人々の存在。紹介した「池上エリアリノベーションプロジェクト」のリノベーション事例以外にも、池上には街を愛する人々による古民家カフェなど 個性豊かな店が存在している。休日にふらりとまち歩きをしてみてはいかがだろうか。

●取材協力
・東急株式会社/大田区
・池上エリアリノベーションプロジェクト
・SANDO
・つながるwacca
・ノミガワスタジオ
(大川 晶子(スタジオノラ))

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