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コラム

2020.11.21 16:00  マネーポストWEB

「全部ハンコのせいだ!」と八つ当たり 地方移住で部屋が借りられない40代男の苛立ち

ハンコがないと手続きが進まないことはよくあるが…(イメージ)

 河野太郎行革相が「改革姿勢」のアピールのために「ハンコ」廃止を表明しネット上では賛同の意見が大半を占めていたように見える。しかし、河野氏が「押印廃止」と書かれた印影をツイッターで公開したところ、批判を浴びて投稿を削除したうえに、ハンコの生産地として知られる山梨県の長崎幸太郎知事が激怒し、自民党本部に乗り込む事態となった。

【画像】まさかの手続きトラブルに見舞われて途方に暮れる「40代男性」こと中川淳一郎氏

 知事は自身の地元の大切な産業が揶揄されたと感じ、抗議の行動に出たのだろう。これについて当初、「何でもかんでも古い慣習だと切り捨てる河野さんは、大人げないな」と思ったというのは、ネットニュース編集者の中川淳一郎氏(47)だ。だが、この数日間、引っ越しの部屋探しにまつわる手続きを通して、「やっぱハンコいらない。河野さんに賛成」と思うようになったという。いったい何があったのか。中川氏が考えを変えるに至った厄介事体験をレポートする。

 * * *
 山梨県知事のあの動きについては「男気を見せたな!」と思いましたが、それは当初、私が「ハンコ文化」がいかに面倒くさいかを知らなかったが故のことでしょう。この件については新聞記事で知りまして、「とりあえず慣習として成立してるから、あえて切り捨てなくてもまぁいいんじゃない?」と感じました。以前、コロナ禍のリモートワークが始まった時に「わざわざハンコのために会社に行った」という話もありましたが、それもちょっと大袈裟に盛られているんじゃないかな、とも思っていました。

 しかし今月、自分が佐賀県唐津市に移住し、新たに部屋を借りるにあたって、その手続きの厄介さに本当に仰天しました。東京では基本的には、自身の収入を見せて保証人を示せば契約は認め印だけで部屋を借りられていたのです。

 今回、私は自分が経営する会社の「社宅」として部屋を借りるのですが、法人契約をする場合、保証人は社長である私にするのが慣例、と不動産業者からは言われました。まぁ、それは全然構いません。ただ、これまで家を借りる時は個人でしか契約したことがなく、法人契約は全て他人任せだったので、まさか、こんなに煩雑な手続きが待っているとは夢にも思っていませんでした。

 なかでも私を打ちのめしたのは、次から次へと不動産業者から届く「ハンコお願いします!」の連絡攻撃でした……。

 今回はまず、「『印鑑証明書』を用意してください」と言われます。よくわかりませんが、社長である私が保証人となるからだそうです。えぇと、今、私は「お試し移住」で佐賀県唐津市の某エリアに住んでおり、今回借りた家が正式に決まってから住民票を移そうと考えていました。

 それでも「とにかく印鑑証明が必要です!」と言われたので、東京で登録していた、印鑑証明書を母に取ってもらいました。母にはそれをレターパックで送ってもらうことに。

 これで済むのかと思ったら、「その印鑑証明書の『実印』と、あなたの場合は法人契約なので、『社判』を持ってきてください」と言われる。あの~、実印って東京で使ったことが1回もないので今、どこにあるのか分からんのですよ……。あまりにも使わなかったので……。そして、社判については、実際に経理関係をすべて取り仕切っている東京にいる弊社社員・Y嬢が管理しているので、私は持っていません……。

 いや、まあ言われてみれば、印鑑証明が必要なら、実印も必要になるのは当然なんですけどね(逆に実印を押すことになるから、印鑑証明が必要になる)。でも、そこに社判まで求められると、もうパニックですよ。

 結局、この3つのハンコ関連のモノを私がなかなか揃えられないために、今、マジで家が借りられないかもしれない事態に陥っています。いや、すべて私のズボラさが原因なのはわかっています。えぇ、いろんな手続きを後回しにしていたり、ちゃんと調べてから行かなかったから、こんなことになっているんです。でも、このままいくと「ハンコ」が理由で最悪東京に戻らなくてはいけない可能性も出てきてしまいました……。

 私は不動産屋との交渉では「結局、これって『信用』の話ですよね? 私の会社の経営状況がまったく問題ないことは決算書を見れば分かりますよね? それでもダメなんですか? ハンコについてはスイマセン、本当にこれまで東京で使うことがなかったのでまったく自分の想定外でした。そこは申し訳ありません。『ハンコ文化』に疎すぎました」とまずは謝罪しました。

 そのうえで、「半年分の家賃を一気に払うので、なんとか契約してもらえませんでしょうか……」というお願いもして、今は返事待ちです。

 自分が悪いのは重々承知しているのですが、その怒りの持って行き場がわからず、今は「ハンコってバカ!」と言いたい気持ちです。

【プロフィール】
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、博報堂入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。最新刊は『恥ずかしい人たち』(新潮新書)。

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