2005年、摘発後に閉店した歌舞伎町のDVD・ビデオショップ(時事通信フォト)

2005年、摘発後に閉店した歌舞伎町のDVD・ビデオショップ(時事通信フォト)

 新宿では「DVD」という呟きだったが、池袋ではまた一味違った「合図」だったという。

「路地に立ってるオッサンが、手で『D』マークを作って、こっちに見せてくるの。なんだろうと思って見ていると、ニコッとして手招きしてくる。Dだけじゃなくて、両手の親指と中指を合わせて円盤を作ってね、DVDの形を作って見せてくる客引きもいたね。一切喋らない、スパイみたいでしょ(笑)」(浜田さん)

 今回逮捕された男らは、今年5月から半年ほどで約4000万円を売り上げていたというが、販売の手口も、そして客層も昔と一切、変わっていなかった。事件を取材した大手紙社会部記者の話。

「街で客を捕まえて、その場で好みを聞いて、別の人間がマンションまでDVDを取りに行くというスタイル。新宿といえばコロナでだいぶ人が減っていたはずなんですが、よくもまあそれだけ売ったなと感心します。しかも客のほとんどが中高年。ネットで動画を探すのが難しく、どうにか見ることができるのはDVD、というデジタルが苦手な人たちばかり」(大手紙社会部記者)

 その海賊版DVDは30枚で1万円ほどだったので、価格だけを見れば、大手メーカーの新作DVDが1枚あたり3000円前後の価格帯だということと比較しても『よい買い物』だったのかもしれない。だが、その値段を告げられたとき、逸る気持ちを押さえ、冷静に「タダより高いものはない」という言葉を思い出すべきだった。ただ買っただけだから罪は重くないと、自身に都合よく考えたら、あとで後悔することになる。というのも、こうした人々こそ次の「ターゲット」になっている事実があるからだ。

 違法なものに手を出してしまったという事実は、いつまでも人を苛み続ける。最近増えているNPO法人や法律事務所を名乗るところから告発するという文書が届いたとき、住所も名前も登録していないDVD購入とは直接の繋がりがない出来事なのに、平静ではいられなくさせるのだ。この手の文書は連絡をさせ、告発を取り下げるための費用などの名目で金銭を要求する特殊詐欺の手口の一つに過ぎないのだが、もし身に覚えがなければ、このような文書を受け取っても落ち着いて対応できるだろう。しかし後ろ暗い気持ちがあると、動転して相手の思うつぼにはまってしまう可能性がある。後ろめたさにつけ込まれた人間は、驚くほど従順に、冷静でいられなくなるものだ。

 今年は、普及がいっきに進んだオンデママンド型動画サービスの影響もあり、DVDを販売やレンタルできる実店舗が加速度的に姿を消している。通販ならば買えるのだが、その多くはネット販売だ。実際の店舗と違って、好みの作品を見つけようと思ったら検索のコツを会得している必要があり、ネット検索に慣れない人にとっては厳しい作業だ。ならば見るのを止めればよいのにと言うのは簡単だが、人間の欲望はそんなに単純ではない。安全に、楽しめる方法を探してもらうしかないだろう。

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