2020年は生活の様々な面が変化した。新型コロナウイルスの感染を少しでも防ごうと、外食をしない代わりにフードデリバリーを利用し、レジャーへ出かける代わりに動画サービスを楽しむ時間が増えた人が多い。一方で、ネット利用に親しんでいない人には苦痛が多い時間だったことだろう。それなりに過ごした人でも、世の中が平常へ戻りつつあるとき、実店舗で現物を手にできることの喜びと安堵を感じた人も少なくないのかもしれない。そんな気持ちにつけ込むかのようにして、いったんは消滅したと思われるビジネスが復活していた。ライターの森鷹久氏が、2020年に蘇った歌舞伎町のDVD店についてレポートする。
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絶滅していたはずのそれが、発見された──。
これが、人間の乱獲や環境の変化で消滅してしまった生命のことであれば「良い話」で済むが、見つかったのはアジア有数の繁華街、東京は新宿・歌舞伎町の「わいせつDVD屋」である。
11月10日、新宿・歌舞伎町のマンションの一室で、客に販売する目的でモザイク処理されていないものや違法にコピーされたわいせつDVD約1万5000枚を所持していたとして、男ら3人が逮捕された。歌舞伎町ならそういう店はあちこちにあるはずと思われがちだが、実は違う。警視庁捜査員がため息混じりに言う。
「2017年の11月、歌舞伎町でわいせつDVDの販売店が一斉に検挙されました。5店舗が摘発され、押収されたDVDの数は約60万枚、しめて2億円分です。これで歌舞伎町から、そういった業者が一掃されたはずだったんです」(警視庁捜査員)
あのときの一斉摘発は筆者も取材し記事にまとめたが、それまでは街を歩くと必ず、道行く男たちに「ニイちゃん、良いビデオあるよ」と声をかけまくる客引きがいた。隆盛を誇っていた彼らが販売していた映像といえば、そのほとんどが海賊版。中にはモザイク処理などが施されていないものも多く、複数の法律を破るものだった。それだけでなく、売却益はほぼ全てが暴力団などの反社会勢力に流れている実態があった。しかし彼らの姿は、大規模な摘発以降は確かに見えなくなっていた。
そんな販売店が絶滅した、というのは社会的には朗報だったが、コロナ禍で様々な店舗の閉店ニュースが流れるなか、逆にひっそりと復活していたというのである。新宿・歌舞伎町、池袋など都内数カ所で飲食店を経営する浜田真司さん(仮名・30代)が証言する。
「緊急事態宣言明けくらいから、また出てきたんだよね。俺らが歩いていると、ぼそっと『DVD』って囁くオッサンが。昔みたいに強引に堂々とキャッチはしないんだけど、とにかくこっそり、まるでスパイみたいに『DVD』って(笑)。そういうささやく誘いをする客引きのオッサンについていくのも、やっぱりオッサン」(浜田さん)