昔から演歌歌手の下積み時代や芸人の貧乏話などはよくあったが、オーディションに落選したことを話す俳優、特に女優はほとんどいなかった。
私もあるベテラン女優の歩みを聞いていて、突然、「初めて話す」と40年以上前の朝ドラのオーディション(当時は一次が書類、二次が芝居とセリフ、三次のカメラテストで15人ほどに絞られ、さらに残った三人から選ばれたそうです)の苦労、最後の最後に「次があるから」と言われた気持ちを涙目で語られたことがある。このころは落ちた経歴はイメージを悪くする、ネガティブ情報と考えられていたのだろう。
しかし、今は、オーディションに落ちてもそこから奮起し、何度もチャレンジした前向きな経歴とみなされる。番宣でトーク番組やバラエティーに俳優が出る機会が増えたことも影響しているに違いないが、共感を呼ぶきっかけにもなるし、何かと批判されることが多い芸能人にとって、「そうは言っても苦労人である」ことは、強みにもなるのである。みんな落っこちて大きくなった! 人気俳優からの「人知れず悔し涙を流していた」告白は、これからも出てくるはずだ。