それからはこの状態でどう投げるか、どう勝つかだけをずっと考える毎日でした。前年度の甲子園で準優勝しているだけに、自分たちの代も最低でも甲子園出場が絶対条件だったため、肘がイカれて落ち込んでいる暇などありません。
それに実は、控えに身長188センチのスリークォーターの好投手がいたんですが、病気を患って戦線離脱となってしまい、ピッチャーが僕ひとりになってしまっていました。そんなチームの台所事情もあり、余計に責任を一身に背負ってしまったのもあります。だから病院にも一度も行かず、肘のことは誰にも言わず、勝つためのピッチングだけをいつも思案していました。
ただ押し潰されずに甲子園準優勝まで勝ち進んでいけたのは、チームメイトの助けのお陰です。それに、エースとしての誇りを忘れなかったからだと思っています。そして自分のケガがきっかけで、甲子園での選手の健康問題が注目されるようにもなった。子供たちの未来のために、意味があったと思っています。
【プロフィール】
大野倫(おおの・りん)/1973年生まれ、沖縄県出身。甲子園で肘が曲がったまま行進する姿が話題に。1995年にドラフト5位で巨人に入団、ダイエーへの移籍を経て現役引退。現在は学校向け「野球体育」の普及活動中。
取材・文/松永多佳倫
撮影/桜井哲也
※週刊ポスト2020年12月11日号