『死ぬにはまだ早い』『白昼の襲撃』と続いた西村潔監督の映画で屈折した若者役を演じ、日本映画におけるハードボイルドの芝居を確立させている。
「ああ、嬉しいこと聞いてくれますね。西村監督が、僕が一番感謝している監督なんだ。
あの人はほとんどアドリブでやらせてくれた。『面白い。クロ、それ使え』って。『白昼の襲撃』で最後に俺が町を歩いて死んでいくのも、俺のアイデアなの。
そんな西村監督も、最後は自殺ですよ。あの人が生きていたら、『ザ・ハングマン』でも何でも、全部やってもらいたかった。
『白昼の襲撃』の時期に俺のやっていた役はみんなチンピラ。それは横浜でヤンキーやっていた時のまんまなんだ。それで社会に対する反発みたいなのを表現していた。そういう感性が西村監督と合ったんでしょうね。
で、それを観て映画界に入ったのが松田優作。『狼の紋章』で共演した時に言っていましたよ。『僕、黒沢さんの映画を観て、この世界に憧れたんです』って。
それで、俺のキャラクターをみんな優作に取られちゃったのよ。『探偵物語』とか、あれもう俺の得意なキャラクターじゃないですか。それで俺のキャラクターがなくなって、低迷しちゃったんだ。
だけど、それはいいの。取られたというのは。俺に力がなかったということだから」
【プロフィール】
春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『すべての道は役者に通ず』(小学館)が発売中。
※週刊ポスト2020年12月11日号