「消費者」を理解するために狩猟免許を取得

 森岡氏は兵庫県出身で大学も神戸と、神戸エリアには思い入れがあるが、地元でも、すでにテーマパークの再生を手がけている。それがネスタリゾート神戸(2016年7月オープン)だ。兵庫県三木市にあるこのリゾート、前身は年金福祉事業団が全国に大規模保養施設を整備した1つの、グリーンピア三木である。

 首都圏では東京ディズニーリゾートの存在が圧倒的なように、関西でもUSJの存在感が際立っており、近畿圏にある他のテーマパークを再生させるのは容易なことではない。そんな中、グリーンピア三木の再生の依頼を受けた森岡氏は、地元ということもあって意気に感じたという。ネスタリゾート神戸は、どんな森岡メソッドで誕生したのか──。

「小さくとも輝けば素敵な彩になるという意味で、ネスタリゾート神戸も、西武園ゆうえんちと同じ視点で支援しています。兵庫県にはこれというテーマパークがなく、しかも三木市にある当地は山の中で何もありません。この環境下で人を呼び込む必然をどう作るか。

 消費者がブランドの選択肢を選ぶ際、たとえばクルマが好きな人であればブランドの選択肢は増えますが、あまり好きでなければ減ります。プレファレンスといって、これはブランドに対する消費者の相対的な好意度を指しますが、そこが理解できれば、消費者から選ばれる必然は作れるのです。

「売れている商品やサービスは、何かしら人間の本能に刺さっている」と森岡氏

「売れている商品やサービスは、何かしら人間の本能に刺さっている」と森岡氏

 では、選ばれるためのブランドの本質とは何か。人間の“本能”にどれだけ刺さっているかで決まるというのが私の仮説です。

 売れている商品やサービスは、何かしら人間の本能に刺さっており、そこを分析する鍵は、『凡人』と『狂人』にあると考えています。“凡人”はマーケットのど真ん中にいる、いわば非常に平均的な人たちです。一方、そのマーケットの中で極端なことをしている人を私は敢えて“狂人”と呼んでいますが、“狂人”は本能が露骨に表れるので分かりやすい面があります。

 本能の構造自体は“凡人”も“狂人”も同じですが、欲求の量と強さが違う。たとえば、狩猟をする人は肉が食べたいのではなく、原始的な環境に身を置いて“食べるものを手に入れることができる自分”という精神的欲求を満たしているわけです。消費者を理解するためには、私も“狂人”にならないといけない。ネスタリゾート神戸は山の中にあり、山における“狂人”といえば猟師でしょう。そこで私は猟師の免許を取得しました。

 普段、便利な文明社会にいると自分の存在価値がわからなくなったり、あるいは家庭でも居場所がないと思っている世のお父さん方は少なくありません。文明社会の中で溜まり切ったストレスの澱を一気にリセットするには、大自然の原始的な世界にどっぷりと浸かり、本能が剥き出しになる体験をすれば解消されるはずです。

“凡人”と“狂人”を結ぶ直線上で刺激ある企画を作れば、消費者の“本能”に刺さります。そして、ネスタリゾート神戸の『顔』のイメージが明確になることで、そのイメージがどんどん消費者の脳内に蓄積されるのです。

 ネスタリゾート神戸は、いまでは約40のアクティビティが楽しめる、グランピング施設も備えた、本能が揺さぶられるほどの大興奮が味わえる“大自然の冒険テーマパーク”です。結果、急速に入場者数も増えていき、開園1年で売上げがそれまでの3倍ぐらいになりました。直近も、今年9月の売上げが前年同月比で133%、10月は187%まで伸びています。このコロナ禍にもかかわらずです」

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