真人が抱えている暗い過去──元彼女に乱暴した相手に対して、重傷を負わせてしまった。しかも元カノが「乱暴はなかった」と事件を否定したため、真人は刑務所に。前科を背負い、もう人を好きになってはいけない、幸せになれないと、自分で自分にブレーキを踏み桃子が寄せる好意をも拒絶してきた──。という事情を、観覧車の中で一気に吐露するシーンは約10分間の長さに及びました。
とにかく「真人」になりきった林遣都さんの憑依的な演技が圧巻で、画面に目が釘付けになった視聴者も多かったはずです。感情を抑え、しかし目に涙をため、うつむいた顔に苦悩があふれる。過去を振り返り言葉にしたくない辛い出来事について一つ一つ言葉を探すしぐさがリアル。役そのものを生きるような演技の力が鮮やかでした。
振り返ると「林遣都」という名前を記憶に刻んだのは、個人的には2013年の『カラマーゾフの兄弟』(フジテレビ)でした。吉田剛太郎演じる悪魔のような父に対峙する、水晶のような少年の透明感がとても印象的でした。その後、林さんの名を一気に広めたドラマといえば2018年の『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)かもしれません。が、夢を追いかけ破れていく青春の苦しみを克明に描き「等身大の青年像をやらせたら右に出る役者はいない」と納得させられたのは、ドラマ『火花』(2016年Netflix 又吉直樹原作)主役の徳永太歩。キレるような瑞々しい演技でした。
切ない。苦しい。もがく。どこまでも丁寧に繊細な人物を描写していく。もし、そんな林遣都という役者が『姉ちゃんの恋人』にいなかったら? このドラマはいったいどうなっていたのかと空恐ろしい気もしますが、杞憂でした。実は「真人」は脚本家・岡田さんがそもそも林遣都さんをイメージして“当て書き”した人物像であって、林さんありきのキャスティングとか。
初回だけ見てピンとこなかったと視聴を止めてしまう人も多いかもしれませんが、初回を見ただけではわからない発見もある。ドラマの醍醐味は設定や筋立てだけではなく、役者そのものを見る楽しさもある。少なくともこのドラマの後半は、林遣都という演技者を見る愉悦に溢れています。