コラム

高齢者も障がい者も“ごちゃまぜ”に暮らす。空き家を活用した街「輪島KABULET」

(写真撮影/イマデラガク)

社会福祉法人「佛子園(ぶっしえん)」が手掛けるまちづくりの特徴は、温泉やカフェ、レストラン、農園など、地域住民が集える場所をつくり、高齢者、障がい者が地域と自然に交われるよう、多様性に富んでいること。なかでも、既存の空き家や空き地を再利用した「輪島KABULET(わじまかぶーれ)」は、全国どの地方でも直面する人口減に対する解決策のひとつとして注目されている。
今回は、「佛子園」理事長の雄谷良成さんに、その経緯や開発の裏側、今後の展開についてお話を伺った。

「生涯活躍のまち」モデルで福祉の街×空き家対策を目指す「輪島KABULET」が展開するエリアは、室町時代からの歴史がある石川県輪島市の中心部。かつてから漆器の輪島塗を生業としていた家も多い街だ。輪島塗の小売店や漆ギャラリー、輪島朝市など観光名所も多い。しかし郊外の大型ショッピンモールに車で出掛ける生活スタイルの増加から、最盛期に比べると人口は2万人弱が減少。かつてはにぎわいのあった街の中心部でも増加する空き家が課題となっていた。 

伝統的な街並みが美しい輪島市街。朝の連続ドラマ小説『まれ』の舞台にも(写真撮影/イマデラガク)

そこで、雄谷さんがアプローチしたのは、ハブとして新たに大型の施設をつくるのではなく、既存の建物を活かして福祉施設+地域住民が集う場を街なかにいくつもつくりだす手法。具体的には、大正から昭和にかけてつくられた既存の木造住宅を改修し、高齢者ケアハウス、障がい者グループホーム、ママカフェ、温泉、蕎麦屋さん、ゲストハウスへと次々と生まれ変わらせた。
費用は復興庁の交付金、国土交通省の空き家対策の交付金などを活用。「高齢者、障がい者、子育て世代、若者、観光客、誰もが行き交う、ごちゃまぜの街にする」という社会福祉法人「佛子園」のコンセプトはそのままに、既存の街を生まれ変わらせるプロジェクトに。2018年には、内閣府による「生涯活躍のまち」モデルの先駆けとして全国に紹介され注目を浴びている。

温泉、食事処、住民自治室、生活介護、放課後等デイサービスが入っている拠点施設「B’s WAJIMA」。中庭を挟んだ向かい側には高齢者デイサービスと訪問介護ステーションもあり、街の中心になっている(写真撮影/イマデラガク)

「GUEST HOUSEうめのや」は、築70年余りの町家をリノベーションしたもの。漆や白漆喰などを活かしたノスタルジックな空間に(写真撮影/イマデラガク)

(写真撮影/イマデラガク)

空き地だった場所に、温泉・レストランを開設。写真は近隣住民が自由に使える住民自治室での「肌に優しい洗い方」教室の一コマ(写真撮影/イマデラガク)

既存の街だからこそ、「街の記憶」を尊重したまちづくりにちなみに社会福祉法人「佛子園」といえば、この「輪島KABULET」以前から、「生涯活躍のまち」政府認定モデルとして、1万坪超の敷地にイチからダイナミックな街づくりをした金沢市の「シェア金沢」が有名だ。では「輪島KABULET」のような既存の街の枠組みを活かしたまちづくりとの違いは何だろうか?

「シェア金沢のような大掛かりなものをつくるのは、土地の確保や資金面などクリアする課題は多く、どこでもできるわけではありません。一方、すでに街にあるものを再利用し、福祉の施設だけでなく地域の人に求められる場所を点在させる手法なら、少しずつ手掛けることができ、その取り組みを街全体に拡大させられます」(雄谷さん)

社会福祉法人「佛子園」理事長の雄谷良成(おおや・りょうせい)さん。住職という一面も持つ(写真提供/佛子園)

ただし、金銭面でのメリットがある一方、すでに地域住民がいて「街が変わること」に誰もが賛成ではない難しさもある。街の開発には賛成でも、自分の家を貸す、改修することには抵抗感のある人も少なくない。
そんな時、雄谷さんが実践しているのは、一軒一軒、1人1人の話に耳を傾けること。
「例えば、空き家でも事情はそれぞれ。息子さん夫婦が年に数回帰省するための家だったり、今は使っていないけれど思い入れがあったり。この路地、あの家で昔はよく遊んだもんだと話してくれる住民の方がいたり……。既存の街の再開発は、街の在りようがすでに自分事で、当事者意識がある。実は、それは強みでもあるんです。だから、当初は一番反対していた住民の方が、のちに一番の応援団になってくださることも多いですよ。反対しているということは、自分に暮らす街に思い入れがあるということですから。当初は空き家を貸すことを断られた方も、時とともに承諾してくださることもあります」

既存の街だからこその苦労もある一方、うれしさもある。
例えば、現在はカフェとなった建物は、元は診療所。「ここを訪れた若いママさんが“私が子どものころ熱を出して夜遅くに駆け込んだんです”という思い出を話してくれました。ひと言で“空き家”といっても、その土地、家には歴史があり、街の人の想いがあるということ。そのひとつひとつが宝物。その街の記憶を継承していく大切さを実感しました」

ママカフェ『カフェ・カブーレ』。「“生涯活躍のまち”というと、どうしても高齢者向けの施設と思いがちですが、意外と子育て世代も多く、こうした施設が必要と考えました」(写真撮影/イマデラガク)

親子で楽しめるクッキング教室やパパ・ママ同士が集まるイベントも実施している(画像提供/佛子園)

子どもからお年寄り、障がいの有無に関わらず利用できる「ゴッチャ!ウェルネス輪島」。地域に密着し、誰もが顔見知りだからこそ、一般的なジムに比べて退会する人が少ない、地域のたまり場のひとつに(写真撮影/イマデラガク)

街は現在進行形。ガレージの改修が“気軽なリノベ”のモデルケースに事業がスタートして2年。蔵を改造したコワーキングスペースや、軒先で無添加の中華そばを食せるお店も開業。さらに、佛子園が手掛ける施設以外にも、体験や見学のできる輪島塗の工房ができるなど、相乗効果が生まれている。「輪島周辺は小さなゲストハウスが増えたので、シーツの洗濯を一気に引き受けるクリーニング店があってもいいねという話から事業化につながったり、拠点の近所の割烹のご主人が食事を終わった後、お客さんをまとめてうちの温泉に連れてきてくださったり、街全体でいい影響をもらいあっています」

ゲストハウス「umenoya」内にあるコワーキングスペース。ワーケーションに利用する人も多いそう(写真撮影/イマデラガク)

空き家になっていた民家を活かした「蕎麦やぶかぶれ」。みんなが気軽に集える場所で、蕎麦はフェアトレードによってブータン蕎麦を輸入したもの(写真撮影/イマデラガク)

そして、最近新しく加わったのが、空き店舗を改修したオートバイや自転車専用のガレージだ。「このあたりはツーリングをする人が多いので、自分の愛車をとことんメンテナンスできる場所があってもいいのでは、というアイデアから生まれました。工事期間は2週間ほど。無理のない範囲で新しいことができるという、モデルケースになったと思います。基本は無人で、鍵は隣のゲストハウスが管理しているので、ランニングコストもさほどかからない。今後は、せっかくなら、愛車を眺めながらお酒でも飲みたいねって、お洒落な冷蔵庫を置く計画も話しています。お金をかけてカフェバーをつくらなくても、これなら気軽にできるでしょう」

輪島市は、2019年「ライダーを笑顔で歓迎する都市」を宣言。この「うめのやガレージハウス」は能登へのツーリング客の拠点のひとつに(写真撮影/イマデラガク)

(写真撮影/イマデラガク)

働く場としての多様性も。そこにあるのは原始的な幸せもちろん、福祉の街としての役割もある。「障がい者のなかには突発的に声を上げたりする人もいます。それにはひとつひとつ理由があるわけなのですが、街の人は慣れていて、振り返りもしないくらいです。認知症、障がい者が身近に自然にすごしていることで、懐の広い街になっていると思います。毎日のやり取りの中で化学反応が起こり始めています」

障がい者も、ウェルネスの受付、インストラクター、機器の清掃、点検など多岐にわたって活躍している(写真撮影/イマデラガク)

頼りになるのは、“かぶれ人”という何でも屋のスタッフ。福祉事業に携わりながら、それぞれの得意分野を活かして、まちづくりをサポート。雄谷さんが会長を勤める青年海外協力協会のOB・OGたち「JOCA」のメンバーも多い。「まちづくりは想定外、問題発生の連続。常に手探り状態。そんなとき、JOCAの面々は、発展途上国に赴き、それこそ”なんでも屋”であったわけで、なんでもやるマルチタスクに慣れています。そのうち、地域の人たちに頼りにされたり、彼らが頼りにしたり、つながりが生まれ、街を盛り上げてくれています」

“かぶれ人”と呼ばれるスタッフたち。青年海外協力隊を経験したメンバーや輪島出身メンバーなどさまざま。それぞれ専門分野もありつつ、フレキシブルに働いている(写真撮影/イマデラガク)

「多様性に満ちた自主的なまちづくり。理想的ですね」という筆者の感想に、「いえいえ理想じゃないですよ。喧嘩もするし、大変なことも多いですから」と雄谷さん。「まちづくりには、そもそもゴールも100点満点も完成品もないんです。それでも、誰かに相談事をしていると、人が人をつなげれてくれたりするし、こんな角度の考えがあるんだと気づくことも多いです。最初から完成品を目指すわけじゃなくて、想定外の出会いが想定外のものをつくり出していくための“場”を提供するのが我々の役目です」

いろんな人を巻き込みながら、変化し続ける「輪島KABULET」。「蔵に眠ったままの輪島塗を使ってみようとか、輪島移住を考えている女優の中尾ミエさんとなにかできないだろうかとか、実はたくらみもまだまだあるんです」と雄谷さんは楽しそう。既存の空き家などを利用しながら取り組みを拡大していくというスタイルは、同様の状況にある自治体は多く、横展開もしやすい。今後の展開が楽しみだ。

●取材協力
雄谷良成(おおや りょうせい)さん
社会福祉法人佛子園理事長。幼少のころから、家業のひとつとして運営されていた障がい者施設で、障がい者とともに暮らし、大学では障がい者心理を研究。青年海外協力隊員としてドミニカ共和国にも赴き、現在は公益社団法人 青年海外協力協会 会長、日蓮宗 普香山 蓮昌寺住職も務める。
佛子園
輪島カブーレ
(長谷井 涼子)

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