【書評】『カインは言わなかった』/芦沢央・著/文藝春秋/1650円+税
【評者】山田ルイ53世(髭男爵 お笑い芸人)
未だ収束せぬコロナ禍。その影響で、各方面散々だが、筆者もご多分に漏れず、である。一発屋芸人の主戦場たる、お祭りやショッピングモールでのお笑いステージ、企業の○○周年パーティーの余興といった案件は、軒並みキャンセル。正月に徳島県のお寺で、“漫才を披露した後、参拝客に餅を撒く仕事”をこなしたのが最後だったから、かれこれ1年近く“地方営業”から遠ざかっている計算だ。
いや、愚痴っても仕方がない。幸い、こうやって文章を書いたり、ワイドショーのコメンテーターやレギュラーのラジオ番組、ナレーター業など、辛うじて残ったものもある。今やどの現場も、アクリル板で間仕切りが施され、『一蘭』でラーメンを啜っているのと大して変わりないが、有難い。
夏も過ぎ、“ニューノーマル”な日々にも慣れた頃、再び暗澹とした気分に叩き落されたのは、“ボージョレ・ヌーボー”の解禁日。毎年、日本のあちこちで企画される、何かしらのイベントで、
「3・2・1……ボージョレー!!」
とカウントダウンの音頭を取るのが、この10年来、我々「髭男爵」の恒例行事となっていたが、今シーズンはお声が掛からなかったのである。
もっとも、“祝・解禁”の催し自体は、オンラインなど様々な形で開かれており、別にコロナのせいでもなかったが、それが余計に不味かった。当方、ワイングラス片手に、「○○やないか~い!」とツッコむ“乾杯漫才”がトレードマークの芸人。この日にオファーがゼロでは、存在価値を見失うというか……みっともない。
とりわけ近年、“ひぐちカッター”か“ワインの資格取ったー”としか喋らぬ人と化している相方・樋口にとって、この手の仕事は生命線……メンタルが心配である。……というような、コスプレキャラ芸人の“しょうもない葛藤”は一切描かれておらぬが、「狂おしいほどに、選ばれたい」想いは同じ。芦沢央著、『カインは言わなかった』(文藝春秋)をぜひ。
※週刊ポスト2021年1月1・8日号