もう80歳だから、あと10年くらいかなと思う人が、そこで病気を見つけて、必要以上に多くの薬をもらって通院・治療生活を送るのって、本当に健康的なのでしょうか。ある程度の年齢になると、病気が見つかったとしても他の病気で亡くなることも多い。進行が遅い前立腺がんなどは代表的ですね。
健診を受けてみると、具体的な症状は特にないのに血液検査でわずかに異常値が出て再検査となることは非常によくあります。その結果を見て神経質になる人は多いですが、医者から見ると、そこまで気にする必要はないことがほとんどです。正常値を少し外れているだけでぴりぴりする必要はないんです。
正常・異常、病気がある・なし、というふうに言葉で表現すると白黒つけられる気がします。しかし、実は人間の体はグレーゾーンが多い。二分法で明確に分けられないことも珍しくないのです。特に加齢現象として必然的に生じてくる異常は、本当に病気と言えるのか。医療者側がグレーゾーンの状態に病名を付けて、病気を新たに作り出している側面もある。コロナ禍だけではなく、人類が経験したことがないほどの高齢化社会に日本は突入しています。単純な答えはなく、これが正解だという医療はまだないのです。
検査をする医療者側としては、正常値を外れているのに絶対大丈夫ですとは言えないから、定期的に検査して経過観察しましょう、と言わざるを得ない。放置して異常が出る人がゼロではない以上、そういう対応になるんです。血液検査自体は大きな手間ではないので定期的に受けてもいいのですが、結果にむやみに神経質になる必要はありません。それよりも、普段の運動習慣、食事習慣などを見直し、ご家族や友人と過ごし、趣味などに向き合って、残された大切な時間を有意義に使うことも重要ではないでしょうか。
これは医者の正直な感想ですが、長年の生活習慣の蓄積によって、高齢になると個人差が非常に大きく開いてきます。病気を持っているか、どれくらい元気か。同じ80歳でも、ぴんぴんしている人もいれば、認知症で寝たきりだったり、大量の薬を飲んでいたりする。年齢はもちろん目安にしかなりませんが、体調と既往歴、ご家族の状況なども総合的に考えて、その健診や検査にどれだけメリットがあるか、ご自分の人生観に基づいて、お一人お一人に合わせて個別に判断したほうがいいと思います。