前述したように、ロマンスカーの車内には1~2台の自動販売機が設置されている。シートサービスやワゴン販売がなくなることを踏まえ、ロマンスカー車内の自動販売機設置台数を増やすことも考えられるが、「今後、自販機の設置台数を増やすかどうかは未定」(同)という。
シートサービス・ワゴン販売の旗手でもあった小田急が、それらのサービスから撤退することは鉄道業界にとって大きな転換点になるだろう。食べることを目的とする乗車でない限り、飲食の提供を省くことが当たり前になる。実際、鉄道旅を楽しめる新型車両のデビューが近年は相次いでいるが、その多くは食べる体験そのものを商品として提供している。
その一例が、2013年に運行を開始したJR九州のななつ星in九州といえる。これが好評を博したことから、鉄道各社はななつ星in九州のようなクルーズトレインを次々と登場させた。
路線が短い私鉄でも、豪華な食事のできる特別な列車は珍しくなくなった。クルーズトレインによって列車内で食事をすることは広まりつつあるが、それはあくまでも”食べる”ことを目的にした乗車にすぎない。クルーズトレインと小田急の”走る喫茶室”とはコンセプトが異なる。
乗客だったら誰もが利用できる食堂車は過去のものとなり、多くの特急列車で実施されてきたシートサービスも見られなくなった。東北新幹線などに導入されたグランクラスでもシートサービスは縮小を迫られている。
コロナによって駅弁業界も大きな打撃を受け、販売の縮小は避けられない。もはや、鉄道車内で食べる・飲むといった楽しみは失われつつある。
自動車旅と比べて、鉄道旅の大きなメリットは移動中でもアルコールが飲める点にある。コンビニで売っている缶ビール、弁当やサンドイッチでは鉄道旅も味気ない。コロナは鉄道旅行の愉しみまで奪おうとしている。