“運”というと、非科学的なものだと感じる人も多いだろう。しかし、その“運”が生物の進化に関係しているという。
「現代の知の巨人」と称される立命館アジア太平洋大学の学長・出口治明さんは、経済誌のインタビューで「人間や生物の基本原理は、ダーウィンの『進化論』に要約されている」としながら、同書を「進化論のすべては運と適応。運とは、適当なときに適当な場所にいることであり、そこに居合わせたときに、どのように動くかが適応。その繰り返しで生物は進化してきた」と読み解いてみせた。
生物学者の池田清彦さんも声をそろえる。
「地球に生命が誕生してから38億年の間に生まれた生命のなかには、絶滅したものと生き延びたものがあります。それらは強者だから生き延びたわけでも、弱者だから絶滅したわけでもありません。
たまたまそのときの環境や、周囲にいた生物がそれらの生存を左右しました。人類が今日まで生き延びることができたのも、たまたま環境に恵まれていたからです」
人類の祖先であるホモ・サピエンスは30万年前にアフリカ大陸に生まれ、10万年ほど前に新天地を求めてユーラシア大陸に渡った。
「その際、現地にいたネアンデルタール人と、ホモ・サピエンスが交雑して生まれた子の子孫がいまのぼくらです。当時、アフリカに残ったホモ・サピエンスは別として、ユーラシアに渡ってネアンデルタール人と交雑せずに純血を守った人々は、耐寒性遺伝子を持たず、その後の氷河期ですべて滅びましたが、ネアンデルタール人と交雑したホモ・サピエンスはその遺伝子を持っていたので生き延びた。これらもすべて偶然であると同時に、それが運といえるかもしれません」(池田さん)
つまり私たちは、はるか祖先の幸運の積み重ねによって現代を生きているといえるだろう。