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松山千春の少年時代、母親が家計を支えていたという(写真は2018年)

 一家を支え続けたミヨさんを、千春は喪主としてこの世から送り出した。

「千春さん、お母さんの棺の中に、何を入れたと思います? 花札です。やっぱり、大好きでしたからね。本当は麻雀牌も入れたかったんだけど、燃えないっていうので諦めて。お母さんも、大好きなものと一緒に天国に行けて、喜んでいると思いますよ」(別の足寄町民)

果たせなかった約束

 冬は花札に興じたミヨさんだが、千春の少年時代、必ずクリスマスには家に居た。

「12月は16日に千春さんの誕生日があるから、それも一緒に祝おうとケーキを買って。家族5人でケーキを囲んで、近況報告をし合ったそうですよ」(千春の実家近くの人)

 千春の高校時代の後輩の1人は、ボロボロに破けたジャージーを着ていた千春が、クリスマスのあとから緑色の新品のジャージーを着てきたことを覚えていると話す。

「どうしたんですかって千春さんに聞いたんですよ。そうしたら『母さんが花札で勝ったから買ってくれた』って。すごくサイズの大きなジャージーでね。千春さんは『こんな大きなものどう着るんだ』なんてブツクサ言いながらも、とてもうれしそうでした」

 同じ場所で時間を共有することは少なかった親子だったが、母の苦労の上に自らの生活があったことを千春は理解していた。そして、音楽の才能を開花させた千春は母への恩返しを果たす。ミヨさんは、もともと歌と踊りが大好きな人だった。

「ミヨさんは、流行歌に合わせて踊る新舞踊の名取で、若い頃は旅回りの一座に属していました」(前出・富澤氏)

 1986年、すっかりスターになった30才の千春は、北海道出身の力士・保志(現・八角理事長)の優勝を祝う会のステージ上にいた。会場には何百人と集まっている。

「千春さんは数ある自身のヒット曲ではなく、村田英雄さんらが歌い継いできた『人生劇場』を歌っていたのを覚えています。傍らには、男装をして踊るミヨさんの姿があったんです。『自分の歌しか歌わない』ってとんがっていた千春さんが、ミヨさんが知っている流行歌を熱唱し、還暦を過ぎた小柄な体をミヨさんがうれしそうに動かす。いまでも記憶に残っています」(前出・足寄町民)

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