男性が提示した感染の根拠、それは「ネット情報」だった。男性は頭痛がはじまるとすぐネットで情報収集をし、コロナ患者が同じような症状を訴えているSNSの書き込みを発見。自身もそうに違いないと考えたのだった。
「説得するなかで、100パーセントコロナではないとは言い切れない、と正直に話すとまた激昂。保健所はコロナを隠しているとか、中高年を殺そうとしているなど、話が陰謀論めいた方向に行ってしまって。とにかく、何を言ってもダメ。こうした問い合わせをしてくる市民はかなりいて、その対応に職員も四苦八苦しています」(山田さん)
九州某市のクリニック勤務・斉藤加奈子さん(40代・仮名)の職場にも、同じように極端な主張を引っ提げてやってくる人が、昨年の秋以降に増えたという。
「コロナだから検査してくれ、保健所が対応してくれないと、直接窓口にやって来られる方が増えました。最初は私たちもギョッとして、隔離部屋に案内したりするんですが、話を聞いてみると、自覚症状と言えるような強い症状はないんです。ちょっと咳が出るとか微熱が続いたとか、普通なら『風邪かも知れないね』というレベル。皆さんに話を聞くと、やはり『ネットで調べた』と仰います」(斉藤さん)
ネット上には、情報源がしっかりと明記された有益な情報もあれば、根拠も、誰が書いたかもわからない真偽不明の情報もある。もちろん現実世界においても、情報というのは玉石混交だが、その提示のされ方など付随した情報によって、信じて良いかどうかを瞬時に判断するものだ。だが、手軽に誰でもすぐに情報にアクセスできるネット上では、「好きな情報」「アクセスしたい情報」だけを選択し比較検討することなく、独りよがりな解釈によって偏った情報を鵜呑みにしやすい傾向がある。その為、本人の心情がポジティブであれば、ある物事について「良い」という情報ばかりが目にとまり、心情がネガティブであれば、物事をとことん「悪い」と決めつけるような情報だけを選んでしまう。 その上、冒頭で紹介したような「何もかも信じられない」という風潮が、こうした極端な思考に陥る人々を後押しするのである。
「コロナ陽性になったお父さんがいらっしゃる家庭にご連絡したのですが、濃厚接触者の疑いが強い奥様が検査を拒むんです。高齢のご両親とも同居されていて、命に関わる問題だから、検査を必ず受けてほしいとお話ししたんですが納得してくださらない」