こうしたリアリティあふれる演技は、役所広司という俳優の経験と実力があってこそ表現できたものでもあるだろう。1970年代後半に俳優としてのキャリアをスタートさせて以降、国内での活躍はもちろん、『バベル』(2006)や『シルク』(2007)などの映画で国際的にも高い評価を獲得してきた彼の活動を振り返りつつ、映画評論家の寺脇研氏は『すばらしき世界』での演技を「役者・役所広司の集大成」と称賛する。
「国際的にも活躍する大スターである役所広司さんは、『関ヶ原』(2017、原田眞人監督)の家康から『孤狼の血』(2018、白石和彌監督)の汚れた刑事まで、多様な人物像を演じることで定評があります。しかし、今回の役は格別です。
人殺しの前科者の人間性を懐深く見せてくれる幅の広さは、役者・役所広司の集大成とも言えます。思えば25年前には、『Shall we ダンス?』(1996、周防正行監督)の実直なサラリーマンと『シャブ極道』(1996、細野辰興監督)の筋金入りヤクザの両方で主演男優賞を総ナメにした過去があるのですが、それを一人の主人公に合体させたようなものなのです」
仲野太賀や長澤まさみ、橋爪功、梶芽衣子など、若手からベテランまで実力派が共演する『すばらしき世界』。メガホンをとった西川美和監督の手腕も含め、隙のない映画として完成されているからこそ、役所広司の“集大成”と言える演技も一層際立つものとなっているのかもしれない。
◆取材・文/細田成嗣(HEW)