自粛中だから価値が上がる
いまや農業の技術革新は日進月歩である。たとえばITベンチャー企業「オプティム」は、AIやIoTやビッグデータを駆使し、ドローンやロボットが必要に応じてピンポイントで農薬や肥料を散布するテクノロジーを提供している。
漁業も同様だ。すでに漁師や漁業協同組合の中には水産物を全国の消費者に直接販売している例もあるが、流通革命という意味で有名なのは「羽田市場」だ。高級魚は地方の漁港から東京に陸送すると品質が劣化するため、空輸で羽田空港に着く。ならばJALとANAのコンテナ仕分け場の隣に市場を作ればよいのではないか、という野本良平社長の発想で誕生したベンチャー企業である。
その狙いが大当たりして当初は首都圏の高級料亭や有名レストランから注文が殺到したが、今回の新型コロナ禍で顧客の店が軒並み休業や時短営業となり、売り上げが激減した。そこで同社は一計を案じ、ネットショップ作成サービス「BASE」を使って「プロが使うグレードの高い商品を一般のお客様に業者間価格で販売」というコンセプトでeコマースを始めたところ、大ヒットした。
野本社長によると、本人が真夜中にヤケ酒を飲んでいたら、娘さんが提案してくれたという。これも、いわばほぼ「D to C」であり、外出自粛で県をまたいだ移動も難しい状況だからこそ、生産者から消費者にダイレクト(もしくはワンストップ)で新鮮で高品質な食材をリーズナブルに届ける仕組みの価値が上がり、潜在的なニーズを掘り起こすことができたわけである。
要するに、農家は自分たちでブランドを作り、「農業経営者」にならねばならないのだ。農業がハイテク化、ブランド化して高収益「D to C」事業だとなれば、若者も殺到する。
一方、全国に584(2020年4月1日現在)もある農協は三つか四つに集約し、農業の6次産業化(農畜産物の生産だけでなく、食品加工、流通・販売にも取り組むこと)を推し進めて世界化すべきである。そうしなければ、硬直化した日本の農業は、このまま衰退の一途をたどることになるだろう。
【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊は『日本の論点2021~22』(プレジデント社)。ほかに小学館新書『新・仕事力 「テレワーク時代」に差がつく働き方』等、著書多数。
※週刊ポスト2021年2月19日号