国内

森氏発言に見る「インクルージョン・ライダー」の重要性

大会組織委員会会長・森喜朗氏の動向が耳目を集める(時事通信フォト)

辞任してもなお批判は止まらず(時事通信フォト)

 作家の甘糟りり子氏が、「ハラスメント社会」について考察するシリーズ。今回は、当面はくすぶり続けそうな森喜朗氏の女性蔑視発言問題について。

 * * *
 東京オリンピック・パラリンピック組織委員会会長を辞任してもなお、森喜朗氏への批判が止まらない。あれだけの女性蔑視の発言をしたのだからもはや擁護のしようもないけれど、森氏への批判に対して「いじめ」だの「不寛容」だのという発言があると知って、これはまだまだ声をあげていかなくてはならないと思った。

 話が長い男性だっているし、話が短い女性だっているし、論議すべき議題があるなら話が長いのは非難されることでもない。あらかじめ根回しされた議題を形だけ会議にかけるのが習慣になってしまって、挙げ句に意見のやり取りを話が長いと感じるようになったのだろうか。

 森氏いわく「話の長い」ラグビー協会の女性委員に対して、JO Cの女性委員は「わきまえている」のだそうだ。「わきまえる」とは、すべきこととすべきではないことのけじめを心得ることで、その上には「身のほど」という言葉がよく使われる。つまり森氏の発言は、JOCの女性委員たちは自らを強く意見すべき立場ではないと自覚して、おとなしくしているとの意味に取れる。女性男性に限らず委員なら誰でも意見を持つべきだし、それを発信するべきだ。女性だからといって意見を引っ込めるのが美徳のような感覚は差別もはなはだしい。

 この発言一つからも、JOCの空気が手に取るようにわかる。私も何度か体験した。意見を持つだけで強い女扱いされ、うっとうしがられ、あれでは結婚相手が見つからないなどとからかわれる。強い女はかっこいいと思うけれど、強かろうが弱かろうが意見はあっていいのに。どうしてこんな普通のことを感じだけで「いじめ」で「不寛容」などという人が出てくるのだろう。

 Twitterでは、#わきまえない女というハッシュタグがトレンド入りした。もはや私たちはわきまえている場合ではないのだと思う。

 そんな中、日本オリンピック委員会理事の山口香さんが声をあげた。インタビューを受け、大変恐縮ですけれど、と前置きした上で、「森会長が自ら外れていただけたら、五輪に希望が残る」といった(恐縮なんかする必要などないはず)。これに続く関係者はいないのだろうか。もちろん続くのが女性である必要はない。むしろ男女ともに続く人が現れれば、日本の男尊女卑のイメージを少しは変えられるのではないだろうか。ジェンダーギャップ指数121位の日本のイメージを。

 私が「インクルージョン・ライダー」という言葉を知ったのは2018年3月のアカデミー賞授賞式の中継だった。主演女優賞を受賞したフランシス・マクドーマンドは、スピーチの途中「どの賞であれ、ノミネートされている女性たちは立ち上がって!」と促し、そしていった。「私たちには伝えるべき物語がある、資金を必要としている企画があるんです」。多くの女性たちを勇気づけたスピーチだった。その最後に今夜残しておきたい言葉として「インクルージョン・ライダー」と述べたのだ。「包摂条項と訳されるそれは、契約を結ぶ際キャストやスタッフについて人種や性別などの一定の割合を条件にできるものだ。

 遠いハリウッドの世界のことと思わずに、私たちもこの発想を取り入れるべきではないだろうか。

 件の森氏の発言は、JOC委員会に文科省から女性の比率を40%という指導があって、それについて出たものと報道されている。数だけ合わせても仕方がないという意見もあるが、私はそう思わない。例えば、もし今書いているような内容を男性性10人の中で一人で述べるのと、半分が女性の場で述べるのとでは明らかにプレッシャーが違う。どんなに正しいことだと信じていても、同じ立場の人がいなければ気持ちは揺らぐ。私を含めてたいていの人はそんなに強くないと思うのだ。

 件の「女性は話が長い」という発言の際、笑い声があがったという。そんな中で異を唱えたくても、唱えにくい空気だったことは安易に想像できる。異を唱えようという人が男性だってそうだ。

 多様性というフレーズを、単なる流行りのものとしてではなく、意識高い系などとからなったりせず、きちんと受け止めなければならない。世の中には男性と女性がいて、それぞれ異性愛者、同性愛者、両性愛者がいてトランスジェンダーなどさまざまな有様の人がいる。男性、女性、両性の三種類ではない。謝罪の記者会見で女性登用について考えを問われ、「女性と男性しかいないでんすから。もちろん両性というのもありますけどね」と答えた森氏は、おそらく自分の理解できない有様をすべて「両性」とひっくるめてしまったのだろう。あまりにも雑な言葉遣いである。

 自分とは違う有様の人がいること、そしてそれを尊重することが大切だと思う。オリンピックが中止になっても開催されても、開催されたとしてそれが終わってからも。

関連記事

トピックス

足を止め、取材に答える大野
【活動休止後初!独占告白】大野智、「嵐」再始動に「必ず5人で集まって話をします」、自動車教習所通いには「免許はあともう少しかな」
女性セブン
大谷翔平選手(時事通信フォト)と妻・真美子さん(富士通レッドウェーブ公式ブログより)
《水原一平ショック》大谷翔平は「真美子なら安心してボケられる」妻の同級生が明かした「女神様キャラ」な一面
NEWSポストセブン
裏金問題を受けて辞職した宮澤博行・衆院議員
【パパ活辞職】宮澤博行議員、夜の繁華街でキャバクラ嬢に破顔 今井絵理子議員が食べた後の骨をむさぼり食う芸も
NEWSポストセブン
大谷翔平の伝記絵本から水谷一平氏が消えた(写真/Aflo)
《大谷翔平の伝記絵本》水原一平容疑者の姿が消失、出版社は「協議のうえ修正」 大谷はトラブル再発防止のため“側近再編”を検討中
女性セブン
被害者の宝島龍太郎さん。上野で飲食店などを経営していた
《那須・2遺体》被害者は中国人オーナーが爆増した上野の繁華街で有名人「監禁や暴力は日常」「悪口がトラブルのもと」トラブル相次ぐ上野エリアの今
NEWSポストセブン
海外向けビジネスでは契約書とにらめっこの日々だという
フジ元アナ・秋元優里氏、竹林騒動から6年を経て再婚 現在はビジネス推進局で海外担当、お相手は総合商社の幹部クラス
女性セブン
運送会社社長の大川さんを殺害した内田洋輔被告
【埼玉・会社社長メッタ刺し事件】「骨折していたのに何度も…」被害者の親友が語った29歳容疑者の事件後の“不可解な動き”
NEWSポストセブン
二宮和也が『光る君へ』で大河ドラマ初出演へ
《独立後相次ぐオファー》二宮和也が『光る君へ』で大河ドラマ初出演へ 「終盤に出てくる重要な役」か
女性セブン
真剣交際していることがわかった斉藤ちはると姫野和樹(各写真は本人のインスタグラムより)
《匂わせインスタ連続投稿》テレ朝・斎藤ちはるアナ、“姫野和樹となら世間に知られてもいい”の真剣愛「彼のレクサス運転」「お揃いヴィトンのブレスレット」
NEWSポストセブン
破局した大倉忠義と広瀬アリス
《スクープ》広瀬アリスと大倉忠義が破局!2年交際も「仕事が順調すぎて」すれ違い、アリスはすでに引っ越し
女性セブン
交際中のテレ朝斎藤アナとラグビー日本代表姫野選手
《名古屋お泊りデート写真》テレ朝・斎藤ちはるアナが乗り込んだラグビー姫野和樹の愛車助手席「無防備なジャージ姿のお忍び愛」
NEWSポストセブン
大谷の妻・真美子さん(写真:西村尚己/アフロスポーツ)と水原一平容疑者(時事通信)
《水原一平ショックの影響》大谷翔平 真美子さんのポニーテール観戦で見えた「私も一緒に戦うという覚悟」と夫婦の結束
NEWSポストセブン