笑二の二席目は談志十八番『鉄拐』。中国の貿易商・上海屋の大余興大会の出し物として連れて来られた鉄拐仙人が口から自分の分身を出す“一身分体の術”で寄席のスターとなり、俗にまみれ堕落していく。驕った鉄拐に手を焼いた寄席は新たに仙境から張果老を呼ぶ。
ここで笑二は鉄拐と張果老が“東王父という師匠の兄弟弟子”という設定を持ち込んだ。張果老が寄席に出たのは堕落した兄弟子を諌めるため“時代の寵児”鉄拐に近づく手段。瓢箪から馬を出す芸で張果老は鉄拐と人気を二分する。面白くない鉄拐は張果老の瓢箪から馬を盗もうとするが、現場を張果老に押さえられてしまう。弟弟子に諭され、俗にまみれた自らを恥じて仙境に帰っていく鉄拐。後に残った張果老が呟く。「帰ったか、これで俺の時代だ」
独自の演出による意表を突く展開と皮肉なサゲ。師匠の談笑に負けない“改作魂”を見せてもらった。
【プロフィール】
広瀬和生(ひろせ・かずお)/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接してきた。『21世紀落語史』(光文社新書)『落語は生きている』(ちくま文庫)など著書多数。
※週刊ポスト2021年3月12日号