上司との話し合いは平行線のままだったので、自身が関与する面接だけは、外見での選別制度を辞めた。上司が言うところの外見が良い子が店員になったほうが売上がよい、というのは明確に数字として結果があるわけではなかったし、何より差別的なだけで意味が無いと感じたからである。
すると半年も経たないうちに、思わぬ形で吉報が飛び込んできた。
「西日本の某店舗で、外見でなく店舗の雰囲気に合うかといった性格や意欲、実績で採用を続けたところ、店の売上が短期間で目に見えて上がったんです。売り上げに貢献していたのは、私以外の責任者によって、別店舗での採用の際に『外見』が理由で落とされた子たちです。彼女たちは本当に服が好きで、この仕事がしたいから低時給でも来てくれていた。見た目の良さを取り繕うことに集中していては、こんな成果は出ない。容姿を一番の基準として採用することが、いかに馬鹿げているかと確信しました」(赤木さん)
とはいえ、今なお業界にルッキズムを肯定する風潮は色濃く残る。これについては、もはや「仕方がないのか」とため息をつく。
「私の上司はこの売上の結果を受けて、従来の容姿で採用という基準がダメだった、とは思っていません。今回は売れたからよかった、だけなんです。セクハラやパワハラがいけないという風潮はかなり浸透していますが、彼らが当たり前だとして改めるつもりがないナチュラルな『ルッキズム』はなかなか打ち消すことができません。男性に対しては、たぶん否定するだろう基準を女性には当然として向けてくる。女性のおかげで成り立ち、現場でもたくさんの女性が活躍している我々のような業界が率先して変えてゆかないとダメなのに。でも、ファッションや美容業界において、容姿選別を仕事の一部だと考える感覚は根強い。これがおかしいという認識が共有されるには、きっと何十年もかかるはず」(赤木さん)
以前と比較すれば、セクハラやパワハラも、そしてルッキズムについても、それが馬鹿馬鹿しく、あってはならないのだと納得している人は増えたはずだ。それでも、潜在的な意識が変化するまでは時間もかかるし、その過程で先の「客選別美容師」のごとく、ナチュラルに差別と偏見にまみれた発言での大炎上が、あと何度起きてしまうのだろうか。