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コラム

2021.03.22 07:00  SUUMOジャーナル

保育園の中に総菜屋さん!? 商店街みんなで子育て「そらのまちほいくえん」

(写真提供/そらのまちほいくえん)

新生活が始まる人も多い春。なかでも、産休や育休が明け、職場復帰を控えた園児の保護者は、期待と不安で胸がいっぱいなのではないだろうか。今回は、鹿児島県鹿児島市の繁華街・天文館の商店街にある、総菜店を併設した保育園「そらのまちほいくえん」の取り組みを紹介。「あったらいいな」を実現した保育園の副園長・柳元正広さんにお話を聞いた。
変化の時代を生き抜くために。根本の力を身につける保育園総菜店が併設されたユニークな企業主導型保育園「そらのまちほいくえん」。どのような背景で立ち上げられたのだろうか。

「そらのまちほいくえん」の外観。向かって左側が総菜店、右側が保育園の入り口で、真ん中は身長計(写真提供/そらのまちほいくえん)

「『そらのまちほいくえん』は、今年3年目を迎えた保育園です。僕たちはその前に、霧島市で『ひより保育園』という保育園を立ち上げました。ここは郊外の自然豊かな地にあり、広い園庭でのびのびと園児たちが遊べる保育園です。食育などの取り組みでも注目され、首都圏からも視察に来る人がいました」

「ひより保育園」はいわゆる“のびのび系”の園。給食には地域の農家の野菜を使い、おやつも手づくり。広い園庭があるほか、高齢者施設も隣接しており、幼少期に親以外の多くの大人と関わることができる。園児は包丁を握って料理し、お客さんをもてなすこともある。

「視察をした人たちからは度々、『理想的だけれど、この場所だからできることだよね』という声が聞こえてきました。でも僕たちは、『この場所じゃなくてもその土地ならではのやりかたで人が育つ園がつくれるはずだ』と思っていました。だから都市部に『そらのまちほいくえん』をつくることは、自分たちにとってもチャレンジだったのです」

(写真提供/そらのまちほいくえん)

両保育園は、「保育業界の外にいた人が同じ考えに共鳴し合い、集まってつくった」という園だ。柳元さん自身も以前は関西で小売業をしていて、そらのまちほいくえんの立ち上げで鹿児島にUターンしてきた。

「仲間には、ビジネスの世界で活躍していた人もいれば、新卒者向けのコンサルタントをしていた人もいます。今は変化が求められている時代。生きにくさや閉塞感を感じる人が多く存在します。コンサルタントをしていた仲間は、『働くことの意味が分からない』という若者の声を耳にしました。現代社会が抱える問題を、自分たちでどう変えていくかを考えたときに、会社の前に大学があり、高校、中学校、小学校、そして幼児期がある。0歳から5歳までの時期に、人としてしっかり生きる力を身につけるという、根本が大事なんじゃないかという思いがあって、これに対する一つの方法が、保育園をつくるというものでした」

商店街にある「天文館まちの駅 ゆめりあ」前をお散歩で通過。産地直送の野菜や花が並ぶ(写真提供/そらのまちほいくえん)

保育園の立ち上げで、人と街へ2つの問題解決天文館という都市部の商店街に保育園をつくるにあたり、柳元さんたちは、大きく2つの目標を定めた。
「1つは、都市部でも郊外と同じように、現代の子どもたちがこれからの社会を生き抜いていく力を育むこと。もう1つは、今寂しい状況にある地方都市の商店街に、にぎわいを呼び戻すということです。保育園が起点となった街づくりができないかと考えました」

柳元さんたちは、「幼少期に、親以外の大人とどれほど多く、どれほど深く関われたかということは、その子の人生に大きな影響を与える。地域の人たちと日常的に交流することで、より充実した園生活を送ることができる」と考えている。

そんなそらのまちほいくえんの特色の一つが、総菜店が併設されているという点だ。

仕事帰りに保育園へ子どもを迎えに行き、それから夕飯の準備のために、空腹の子どもを連れてスーパーへ行くのは、日々のことながら辛い。

「僕も小学生と年長児の父親ですし、子育て中のスタッフも多いです。これまで、保育園へ迎えに行った帰り、その場でお総菜が買えたら便利だなと考えることがよくありました。時間がなく疲れているからといって、毎回スーパーやコンビニでお弁当を買うのは子どもに対して罪悪感がありました。保育園の食事と同じように、地元農家さんが育てた旬の野菜を使って、丁寧に調理したおかずやお弁当が買えたら安心なのではと考えました」

見て触れて「食べることを楽しむ」ため、小さな子も離乳食から陶器の食器を使っている(写真提供/そらのまちほいくえん)

誰もが「罪悪感なく」買って帰ることができるお総菜を3階建てのビルの1階から3階に入居している「そらのまちほいくえん」は、1階に入り口が2つあり、向かって右側が保育園、左側が「そらのまち総菜店」になっている。

ショーケースに並ぶのは、園の給食で出しているおかずもあれば、店頭オリジナルの総菜もある。近郊の農家による旬の野菜を豊富に使い、季節を感じられるラインアップだ。「見た目も楽しくなるように」と調理法もアイデアを凝らしているという。園児の親子にとっては、「これおいしいよ」という共通の話題もできるし、入園前の幼児を持つ近隣の保護者にとっては、園の給食の試食感覚で購入することもできる。

保育園の1階スペースに、総菜のショーケースと地元野菜の販売コーナーがある(写真提供/そらのまちほいくえん)

総菜は「春巻き」や「菜の花の入ったオムレツ」など、300円~600円の価格帯が常時12種類ほど。ほかに、650円~850円の価格帯のお弁当を4~5種類そろえている。園児に人気のメニューを聞いてみると、「今なら季節野菜の白和えですね」とのことだ。

「コロナ禍の影響もあって、お弁当を買う人は増えています。お昼は商店街にあるお店で店番をしている人が買いに来られることが多いです。『同じ釜の飯を食う』と言いますが、街の人と園児が同じものを食べているということには意味があると思います。また、園児の保護者の中にも、日常的にリピートしてくださる方がいて、やはり『園の帰りに子どもを別の場所に連れていかなくていいのが助かる』と喜ばれますね」という。保育士やスタッフも子育て世代なので、仕事が終わると総菜や野菜を購入して帰っていくそうだ。

「鹿児島の郷土料理である『がね』も好評です。これはサツマイモやニンジンなどのパリッとしたかき揚げで、昔はどの家でもつくられていた家庭料理ですが、今はつくる人が減っているようです」と柳元さん。
若い世代へ、地元に伝わる味や旬の豊かさを伝える役割も果たしている。

彩りも鮮やかなお弁当。姉妹園のひより保育園の食育から生まれたレシピ本も出版している(写真提供/そらのまちほいくえん)

家族や地域の人も園児と同じおかずがたべられることで、地元に伝わる味や旬を知り、一体感が育まれる(写真提供/そらのまちほいくえん)

子育て世帯が行き来し、寂れかけた商店街に変化が天文館商店街はどう変わったのだろうか。
「そらのまちほくえんは、元は本屋だった空きビルを使っていますが、柳元さんたちがこの場所に保育園をつくることを検討しはじめたころは、ここの前の通りは人通りがありませんでした。路面に10以上の空き店舗があって目立つような、寂しい通りだったんです。でもそこに、約50人の園児がいる保育園が入ることにより、朝夕、50組の子育て世帯が通ることになります。0から、少なくとも50×2往復の人通りが生まれたわけです。すると、そこをターゲットにしたお店もできてきます。今はほとんどのテナントが埋まっている状態になりました」

「周辺のお店の方から『人通りが増えて街に活気が出てきた』と喜ばれたり、『飲み屋が多く夜のイメージが強かったが、保育園ができてからは明るい昼のイメージに変わった』と言われたりすることも。地域の方に、『街が子どもを育てるとよく言うが、ここは子どもが街を育てているね』と言われたのはうれしかったですね」

商店街での買い物の様子(写真提供/そらのまちほいくえん)

(写真提供/そらのまちほいくえん)

クッキングの食材を園児が「くださいな」(写真提供/そらのまちほいくえん)

街なかの保育園だから分かる「持たないことの豊かさ」「豊かさってなんだろう」。保育園をつくるにあたり、柳元さんたちスタッフは改めて考えたという。

「郊外型の保育園であれば、自然の豊かさを感じることができる。でもそれだけじゃなくて、街には街の豊かさがあるはずです。さまざまな世代や立場の人と日常的に関わり、交流できることが、街の保育園で得られる豊かさなんじゃないかと考えました」

八百屋に花屋、団子屋、美容室……。園児たちが商店街を散歩すると、いろいろな店の人たちとのふれ合いが生まれる。かわいらしい園児たちの姿を見に、店先へ出てくる人も多い。

3年目を迎え、0歳で入園した子も3歳に。「みなさん、子どもたちに『大きくなったね。もう歩けるの?』などと声を掛けてくれます。核家族が増えた時代に、家族や同年代の子だけに関わるのと、日常的に商店街のいろんな世代の人たちと話すのとでは、関わる人の幅が全く違います」

食育の一環で子どもたちが料理をするために、子どもたち自身が保育士と買い物へ行き、店の人と話して、使用する野菜を選んで買うこともある。

「選んだジャガイモをマッシュポテトにするかコロッケにするかなど、どうやって食べるかも子どもたちが決めます」と柳元さん。ちなみに、こちらの園児たちは包丁で根菜を切り、火や油を使って玉子焼きを巻き、唐揚げも揚げる(!)。園児は年齢を問わず参加し、手掴みができる子なら、1歳前後からプチトマトを洗ったり、しめじをほぐしたりして役割をこなす。

練習してうまく巻けるようになった玉子焼き。食育スタッフが吟味した調味料を使う(写真提供/そらのまちほいくえん)

商店街のビルの中にある「そらのまちほいくえん」には園庭がない。
「街なかでは子どもが遊ぶところがないのでは?と言われることがあります。でも、近くには公園がいくつもあるので、『今日は芝生がきれいな公園に行こうか、それともジャングルジムで遊べる公園にしようか』と、子どもたちが話し合って行き先を決めます」

1番大事なのは、子どもたちが生きていく力を身につけることだと柳元さんは強調する。
「子どもたち自身が『今日は走りたいから広い公園に行こう』などと自分で考えて、自分で行動することができています。園庭を持たないからこそ、目的に合わせて行き先を選ぶことができる。持たないことの豊かさもあるんじゃないでしょうか」

子どもたちは、近くにある水族館まで歩いて、イルカのトレーニングの様子を見るのも大好きだという。
「これらも、街なかにある保育園の特権ですね。郊外型保育園ではなくても、子どもたちが色々な経験をすることはできます」と柳元さん。

保育スタッフのほかに食育スタッフがクッキングに立ち会う(写真提供/そらのまちほいくえん)

地域交流が防犯や防災の役割も担う商店街での交流が、地域の防犯や防災の面でも機能していると感じるという。
「子どもたちは商店街のみなさんと顔なじみなので、連れ去りなどの犯罪も未然に防ぐことができると思います。その子の様子が何か違うということは、街の人が普段の様子を知っているからこそ分かるものですから。
以前、火災報知器が誤作動で鳴ってしまったことがあるのですが、近所の人たちがタオルを持って駆けつけてくれました。体格のいいお兄さんが、子どもたちを抱っこしてすぐに避難させてくれて……。何事もなくホッとしましたが、あの時は、街の皆さんに守られているなと感じました」

園でも、地域の備蓄品として常温で長期保存できる焼き芋をストックしているほか、非常時に給食室で炊き出しができるようにと考えている。

「たくさんの方にお力を借りているので、私たちも地域に貢献したいと思っています」

「食べ物を大切にする」「毎月、街のゴミ拾いをする」など普段の活動が評価され、2019年12月に第3回ジャパンSDGsアワード特別賞を受賞(写真提供/そらのまちほいくえん)

今後は、保育園と関わる人や店舗に地域全体で子どもが育つ場をつくっていることが可視化できるステッカーなどのツールを配布し、街との関わりを見える化することで、より関係性を深めていきたいという。

また、いずれは系列の小学校や中学校の設立も視野に入れているそう。「そらのまちほいくえん」と同じように、軸はもちろん、子どもが生きる力を育むことだ。

「学校設立となるとハードルはグッと上がりますが、注目していただいている以上、応えていきたい。さまざまな方の知恵やお力を借りながら、実現に向けて動いていきたいですね」というから楽しみだ。

保育園へ迎えに行き、給食と同じお総菜を買って帰ることができるなんて理想的!
筆者も保育園児の母を経験した。仕事帰りの疲れた体で迎えに行くと、我が子の園では「今日の給食」が展示されていて、「お昼においしそうな魚の竜田揚げを食べたなら、夕飯は簡単でも大丈夫」などと思ったもの……。
バタバタな日々の中、子どもの1日のうちの1食を保育園が担ってくれることで、どれだけ気持ちが救われたことか。総菜店がある「そらのまちほいくえん」なら、さらに親子で夕飯を素早く囲める幸せも付いてくる。

保育園に総菜店を併設する。小さくも思える日々の問題を解決することが、街を変えるほどの大きなパワーに繋がっていた。

●取材協力
・そらのまちほいくえん
(倉畑 桐子)

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