──なぜそんなにちゃんとした人であろう、丁寧であろうとするのでしょうか?

椎名:学生たちと接していると、人に優しく、配慮が行き届いている一方で、人を傷つけること、怒られることを恐れる傾向が強いなと感じます。傷つけたり傷つくのが怖い、だから丁寧にしていようってことではないでしょうかね。

SMAPの「解散させていただきます」と、V6の「解散します」

──「させていただく」の流行には、SNSなど、不特定多数とつながろうとするコミュニケーションの影響もあるように感じます。誰が読んでいるかわからないから丁寧であろうとする。叩かれたり炎上しやすくもなっています。

椎名:それも大いにあると思います。そもそも人が敬語を使うようになった背景には、身分社会から近代化が進み、都市化、匿名化が進む中で、誰かわからない相手に失礼のないようにしたいという欲求があったからです。SNSなど、誰が見ているかわからないコミュニケーションが広がって、失礼のないようにしたいという意識は高まっているのかもしれませんね。たくさんの人とつながりたい一方で、炎上して抹殺されたくない、という恐怖にもさらされていますよね。

──ただ、あまり使うと、顔が見えなくなると。

椎名:そうですね。顔を見せるというのは、本人の意思や責任を示すということです。とくに「させていただく」を、自分が主体的に行う動詞に使うと、誰の許可を求めているの?と聞きたくなります。たとえば芸能人の「結婚させていただきます」や「交際させていただいております」は、謙遜や周囲への配慮を表現していることはわかるのですが、勝手にやってください、とツッコミを入れたくなります(笑)。SMAPが解散したときの「解散させていただきます」にも、それを感じました。「解散」は、強い意思をもって行う行為ですから、「解散します」と言えばいいのにと思ったのですが、そのように言えない事情があるのかなと勘ぐってしまいました。そういえば、V6は「解散します」と書いていましたね。そういう違いには、微妙なニュアンスが感じられます。

──「させていただきます」を乱発すると、慇懃無礼な印象を与えることもあるように感じます。上手な使い方はありますか?

椎名:以前、国分太一さんが出演されている料理番組を見ていたら、国分さんは最初からずっと丁寧な言葉を使っているのですが、料理が完成して、味見をしたときに一言、「うま~い!」と言ったんです。これが、うまいなあと(笑)。その後はまた、丁寧な言葉に戻るんですよね。こうやって、タイミングよく敬語を外せる人ってすごいなあと思いますね。日頃は「させていただく」シェルターの中にいる人も、たまに「顔」を見せると意思が伝わって、人との距離がぐっと縮まると思いますよ。

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