暴力は憎いから振るうのではなく依存性がある
「ご主人は、お酒を飲みますか?」
「毎晩、飲みます」
「どのくらいの量ですか?」
「外で飲んで来ることもあるので、はっきりとはわかりませんが、家では500㎖のビールを2~3本飲んで、そのあとにウイスキーとか、焼酎とか、ワインを飲んでいます」
きっとかなりの量を飲んでいるのでしょう。
「お酒を飲んだ時に暴力を振るわれることは?」
「お酒を飲むと本当にひどいんです。理由なく怒り出して物を投げたり、私を殴ったり。ひどい時は、食器棚のガラスを割ったこともあって……」
暴力とアルコールがつながっているケースはとても多いのです。そして解決も難しいと言えます。お酒が好きな人が禁酒するのは非常に困難ですし、何より、酔った後の行為は本人が覚えていないので、問題意識が薄いからです。
「どうして今まで我慢してきたんですか?」
私の質問に裕子は答えました。
「もう、慣れてしまったというか。よくないのはわかっているんですが、翌日には主人は反省して、謝ってくれますし」
これもDVの典型です。謝ってくれるから許してしまう。でもまた繰り返す。
「離婚を考えたことは?」
大きく、何度もうなずきながら裕子は言いました。
「何度も、あります。子どもを連れて家を出たこともあります。でも、実家にすぐに迎えに来て、『絶対に離婚したくないから戻って来てくれ』って土下座されて。両親も、『これだけ反省してるんだから、帰ったらどうだ』って。『子どもには父親が必要だろう』と言われてしまって。それを言われると、帰るしかないかなって思ってしまったんです」
これもDVの典型です。妻を連れ戻すために土下座してまで謝る。妻に暴力を振るう夫は、妻への執着が激しく、何が何でも妻を取り戻そうとします。暴力というのは非常に依存性が高く、夫は妻に依存しているのです。憎いから暴力を振るっているわけではないのです。
DVの目撃だけでも心理的虐待に該当しますが、子ども達は暴力の被害に遭っていないのか。それは絶対に確認しなくてはならないことなので、私は裕子に尋ねました。
「お子さんに対してはどうですか?」
「それが……最近、子どもにも手をあげるようになってしまって。1回目の緊急事態宣言の時、夫はテレワーク、子どもは休校で、一緒にいる時間が増えたことがきっかけです。外で飲めなくなったこともあると思います。夫は子どもに対して、ずっとイライラしていて、叩くようになってしまったんです。学校が再開した今もそれは続いていて、これは本当にどうにかしなくちゃ、と思って今日はカウンセリングに来たんです」