現在も「東大卒」のブランドは圧倒的だが、東大生を取り巻く環境は大きく変化しているという。東大の「学生生活実態調査」(2018年度)によれば、学部生が最も多く抱える悩みは「将来の進路や生き方」で、「就職」が続く。
かつて「東大→キャリア官僚」はエリートコースの王道だったが、現在は「官僚離れ」が進む。
2020年度の国家公務員総合職(キャリア)試験合格者1717人中、東大卒は249人で、合格者に占める割合はピーク時の32.5%(2010年)から14.5%に激減した。大学ジャーナリストの石渡嶺司氏が指摘する。
「SNSの発達とともに、若手官僚の職場環境が極めて過酷で、労働時間が非常に長いのに年収が低いことが若い世代に知れ渡りました。加えて、事あるごとに不祥事で国民からバッシングされるうえ、天下りが難しくなっている。東大を出て官僚になる“旨味”がなくなったことも官僚離れの要因です」
現実に官僚になった東大卒は疲弊している。
霞が関の中央省庁で課長補佐を務める30代のキャリア官僚A氏は、月の平均残業時間が150時間。国会会期中は答弁作成のため200時間を超えることもある。
肉体的にも精神的にも常に疲弊し、通勤の満員電車で立ったまま気絶したように眠る──。最近になってようやく、そうした労働環境が問題視されるようになったが、これまで残業代はほとんど出ず、入省10年目の年収は650万円だったという。
自身も東大卒のライター・池田渓氏(2002年入学、理II)は、A氏を取材した際にこう打ち明けられた。
〈東大に入らなければ、こんなつらい仕事に就くこともなかったのかな、なんてことはよく考えます。小さい頃からなまじ勉強ができたから、東大なんかに入ってしまい、人生がこんな悲惨なルートにつながってしまった〉