スマホやタブレットの普及で近くばかりを見ることが増えたために増加傾向にあるといわれる近視。コロナ禍のステイホームでは、さらにその傾向に拍車がかかり、目の不調を訴える人が老若男女に限らず広がりを見せている。
ところが、近視の患者が増えている要因は、「近くばかりを見ているからではない」とする説がある。慶應義塾大学医学部名誉教授の坪田一男氏は語る。
「実は、外で遊ぶ時間が極端に減ったことが、近視の患者を増やしている要因です。これはすでに疫学研究で証明されています」
なぜ屋外での活動が近視の抑制になるのか。その理由として注目されるのが、バイオレットライトだ。
バイオレットライトとは、太陽光に含まれる360~400nm(ナノメートル)の波長領域にある紫色の光のこと。この光に近視の要因である眼軸長の延伸を抑える可能性があることが、坪田氏らの研究で分かったという。バイオレットライトは屋内ではほとんど得られず、一日に2時間ほど屋外で過ごすことが必要になる。UVカットされたメガネやコンタクトレンズでは目に届かない。
「近視になりメガネをかけると屋外でもバイオレットライトが遮断されてしまう。これが近視をさらに進行させてしまう要因かもしれないと考えている」(坪田氏)
現在、バイオレットライトを透過するメガネやコンタクトも開発されている。また、EGR1という遺伝子は近視の進行を抑制する働きを持つとされ、クチナシの果実などに含まれるクロセチンという色素がEGR1遺伝子を活性化させることがわかり期待されている。近い将来、近視に苦しむ人々にとっての福音となるかもしれない。
取材・文/小野雅彦 イラスト/トモリタクヤ
※週刊ポスト2021年4月16・23日号