男たちの三者三様の生き様がアツく描かれる本作だが、筆者はこの中心に立つ瓜田に強く惹かれた。先に述べたように、彼は終始笑顔が印象的で、いつも自分のことはそっちのけ。周囲の者たちを立ててばかりの絵に描いたような“良い人”だ。圧倒的な強さを持ちながらも悩みを抱える小川(東出)や、軽い気持ちでボクシングを始めたものの努力する意義を見出した楢崎(柄本)らと比べれば、主人公らしくない人物と言えるだろう。三者の中で最も平凡なのだ。
そんな瓜田の本作におけるポジションは、“見守る”というもの。演じる松山自身もキャリア的にそうした立ち位置を演じることが多くなった。ドラマ『宮本から君へ』(2019年)や、新田真剣佑(24才)ら今後のエンタメ界を背負っていくであろう若手俳優がこぞって出演した映画『ブレイブ -群青戦記-』などの作品がまさにそうだ。しかし、今作では主役。見守るポジションだからといって、脇に回っているわけではない。“映画の顔”として、作品の中心にいなければならないのだ。
その点で、難しい役どころながらも非常に抑制の効いた松山の芝居は印象的である。彼は作品の中心にはいるものの、分かりやすい感情表現は許されていない。自分が演じる瓜田役よりも、周囲の者たちの存在を際立たせる芝居に徹している。他の者に比べて瓜田の感情の起伏は浅くいつも飄々としているが、時折見せる沈痛な面持ちや、さりげない仕草でやり場のない思いを表現している。
これらがあるからこそ、ボクサーとして開花せず、無理をして笑っている彼の姿が胸に迫るのだ。松山の佇まいこそが、「勝つことだけがすべてではない」という、誰の胸にも刺さる本作の普遍的なテーマに厚みを持たせているのだと思う。
【折田侑駿】
文筆家。1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。