真壁昭夫 行動経済学で読み解く金融市場の今

アルケゴス問題は氷山の一角か リーマン級の金融危機につながる懸念も

野村ホールディングスの損失額は約2200億円にものぼるとされる(写真/時事通信フォト)

野村ホールディングスの損失額は約2200億円にものぼるとされる(写真/時事通信フォト)

 人は常に合理的な行動をとるとは限らず、時に説明のつかない行動に出るもの。そんな“ありのままの人間”が動かす経済や金融の実態を読み解くのが「行動経済学」だ。今起きている旬なニュースを切り取り、その背景や人々の心理を、行動経済学の第一人者である法政大学大学院教授・真壁昭夫氏が解説するシリーズ「行動経済学で読み解く金融市場の今」。第17回は、野村証券など名だたる金融機関に巨額損失をもたらした米投資会社「アルケゴス」問題の本質について。

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 3月末、突如噴出した野村ホールディングス(HD)や三菱UFJ証券HD、みずほフィナンシャルグループの巨額損失問題。これら日本を代表する金融機関が多額の損失を被った原因が米投資会社アルケゴス・キャピタル・マネジメントであることに、市場関係者の間で注目が集まった。

 損失額はスイスの金融大手クレディ・スイスの約5000億円超を筆頭に、野村が約2200億円、三菱UFJが約300億円、みずほが約100億円などと報じられている。一方で、同じようにアルケゴスと取引していた米投資銀行のゴールドマン・サックスだけはうまく売り抜けて損失を回避したと言われている。逃げ遅れた多くの金融機関が巨額損失に見舞われた格好だ。

 この「アルケゴス・ショック」は、時間の経過とともに注目度が薄れつつあるようだが、実は相当大きな問題をはらんでいる。現在、コロナで打撃を受けた経済を立て直すため、各国の金融当局が大規模な金融緩和を進めており、大量の資金が株式市場に流入、世界的な「カネ余り」と超低金利状態を作り出している。これが世界的な株高を演出しているわけだが、一方でその“弊害”も出始めており、今回のアルケゴス・ショックはその最たる例と言えるからだ。

 米国では1月下旬に「ロビンフッダー」と呼ばれる個人投資家たちがSNSを駆使して、機関投資家やヘッジファンドを追い詰める「個人投資家の乱」が勃発。機関投資家が空売りしている銘柄をロビンフッダーたちが協力して買い漁り、踏み上げ相場を演出した。この影響を受け、3月8日には英金融会社のグリーンシル・キャピタルが破綻したが、これも世界的なカネ余りを背景に過熱した今般の金融市場の弊害をあぶり出した格好と言えるだろう。

 そして、その極めつきが「アルケゴス」問題である。アルケゴスは、かつて名を馳せた米ヘッジファンド、タイガー・マネジメント出身のビル・フアン氏が、個人の金融資産を管理・運用する目的で設立した投資会社で、「ファミリーオフィス」と呼ばれる形態だ。ファミリーオフィスは、いわば“ヘッジファンドの個人版”だが、ヘッジファンドとは違い、あくまで個人資産を取り扱う名目なので金融規制の対象外となっている。金融当局への報告義務などがないことから、リーマン・ショック後に多くのヘッジファンドがファミリーオフィスに資金をシフトした。そして当局の目が届かない“隠れみの”として使われるようになったのだ。

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