コラム

コロナ禍のシェアハウス暮らし「毎日の“おはよう”が心を平穏に」。ニーズに変化

(写真撮影/五十嵐英之)

2005年前後からブームになったシェアハウス。ここ数年で、1000冊以上の本を備える団地「ジェイヴェルデ大谷田」や商店街の空き店舗を活用した「寿百家店」など、バリエーションが見られるようになりました。コロナ禍で人々の住まい方や働き方が変化している今、新たな動きはあるのでしょうか。シェアハウス専門ポータルサイト「ひつじ不動産」、「ヨコスカシェアロッヂ」オーナー、入居者、それぞれに話を聞きました。
法改正を追い風に、個性派の物件が地方で次々と登場シェアハウス専門ポータルサイト「ひつじ不動産」北川大祐さんは、「2013年に『違法貸しルーム通知』が出されてからの行政の地道な取り組みが、重要な役割を果たした」と言います。

「2013年9月6日に国土交通省から、いわゆる“脱法ハウス”の是正指導を強化する『違法貸しルーム通知』が出され、法適用が極端に厳格化されました。しかしその後、継続して行われてきたさまざまな関連法規の改正の結果、小規模の建物をシェアハウスに転用する際の法的基準が大幅に緩和・明確化。一方で、特定のシェアハウスへの不正融資が発覚した2019年の『スルガショック』により、粗雑なシェアハウス投資の危険性が広く認知されました。こうした流れのなかで中長期のていねいな運営を見据えた、小規模で良質なシェアハウスをつくるオーナーが再び増加しはじめたのです。

企画・設計・運営を個人、あるいは少人数の会社が行い、建築が特殊、あるいは作家性のある物件が多いのが特徴です」(北川さん)

コロナ禍以降はリモートワークで遠方でも仕事が出来る人が増えたことで、「都市部」「駅近」といった便利さより「落ち着いた環境」を優先。ある程度、社会人経験のある世代が、都心に通勤可能な郊外の物件を選ぶようになっています。

(写真/PIXTA)

「シェアハウスはもともと『人との触れ合い』を持てる住居形態ですが、郊外エリアではコロナ禍でもその点がプラスに働いているケースがあるようです。『在宅勤務に最適な郊外型の豊かな環境』『個性的な小規模物件』、これに付随して生まれた『コミュニティの魅力』の3つが、コロナ以降に目を向けられている物件のポイントと言えます。都心から離れた小規模のシェアハウスであれば、一般家庭と感染リスクは大きく変わらないと考え、都心で押さえ込まれるような生活を送るよりはよいと考える方が、一定数おられるということでしょう」(北川さん)

(写真/PIXTA)

例えば、池のほとりに立つ木々に囲まれた「すいれん館」(大阪府・東大阪市)は「静かな場所で過ごしたい」と希望する入居者が増加し、アトリエスペースやアウトドア用品のレンタルを行っている「ARTdoor’s(アートドアーズ)」(大阪市)では、入居者同士で趣味の時間を分かちあっているそう。ホテル調にリノベーションされた「MOTENA PLEASE(モテナプリーズ)」(大阪府豊中市)は、ヒノキを一部に使った大浴場などがゆったり過ごせて好評と言います。

入居者の暮らしぶりが、今にも見えてきそうな物件。コロナ禍で変わりつつあることが、事例に現れているようです。

都心から電車で約1時間でも自然がある「ヨコスカシェアロッヂ」同じような変化が見られるのが、昨夏オープンした定員4名・女性限定のシェアハウス「ヨコスカシェアロッヂ」。東京駅から電車で約60分、横須賀中央駅から徒歩約5分。駅に大型ショッピングモールが隣接し、周辺には商店街やカフェ・コンビニ・ドラッグストアなどが充実。それでいて小高い丘に立つため見晴らしがよく、驚くほど静寂な環境です。

築約100年の長屋を活用した「ヨコスカシェアロッヂ」。関東大震災の廃材が使われており、味わいを活かしたデザインが特長です(写真撮影/五十嵐英之)

リビングの向かいには海を望む大きなデッキが。「朝、ここでコーヒーを飲むと自分のペースをつくれます」(H.Iさん)(写真撮影/五十嵐英之)

オーナーの多久和洋平さんは会社員時代、DIYでセカンドハウスをつくったのを機に「空き家をデザイン・改修・賃貸する」事業をスタート。三浦半島で4つのシェアハウスを運営しています。

「コロナで在宅勤務になり、住まい方の自由度が上がったことから、それまで横須賀と無縁だった方に入居を検討してもらえるようになりました。なかには山形や沖縄から来られる方も。就職で上京する方が、都心の密
集を避けるためにあえて横須賀を選ぶ例もあります。

物件への問い合わせは20代半ばから30歳前後の方が多いです。一人暮らしを体験して住まいへの価値観が定まり、プラスαを求めている年代なのかもしれません」(多久和さん)

リモートワークの閉塞感を抜け出すべく暮らしをチェンジはるさん(仮名・29歳)が「ヨコスカシェアロッヂ」に越して来たのは昨年8月。東京都中野区にあるワンルーム・賃貸アパートで一人暮らしをしながら、都心のオフィスで内勤の仕事をしていましたが、昨年3月にフルリモートに切り替わり、心境に変化が訪れたそう。

「誰にも会わない日々が続いて、引きこもりのような状態になってしまって。丁度、部屋の更新が迫っていたのですが、リモートが長引くことが予想できたので、『ほどよく人と関わりながら生活したい』と、シェアハウスを思いつきました」(はるさん)

一般的な賃貸アパートでは見られない「むき出しの梁」や「古材の床」が、何とも贅沢。アンティーク調の椅子も雰囲気たっぷりです(写真撮影/五十嵐英之)

海外へ留学していた時にルームシェアの経験があるはるさん。住まい方が変わることに、抵抗はありませんでした。
物件探しは、通勤が再開したときを考え「会社までドアツードアで約1時間以内」であること、「入居者が少人数で女性限定なこと」、以前の勤務地で親しみがあったことから「神奈川エリア」を条件に。
最終的に逗子の物件と「ヨコスカシェアロッヂ」に絞られましたが、駅周辺に何でもそろっている後者を選びました。

シェアハウスから坂を下ると5分ほどで商店街に。「徒歩圏内で日常の必要なものを何でもそろえられて、とても便利です」(はるさん)。横須賀には日本とアメリカンな雰囲気が融合した「どぶ板通り商店街」(写真)のようなユニークな商店街も(写真撮影/五十嵐英之)

「中野区にいたのは通勤がしやすいというだけの理由なんです。都内にもシェアハウスはありますが、狭いし、家賃が高いので、私にとってメリットはありませんでした」(はるさん)

二段ベッドなので下部にものが置けるほか、すき間を有効活用したオープン棚も。ディスプレイを楽しみながら、しっかり収納できます(写真撮影/五十嵐英之)

そんなはるさんの平日は、始業の少し前に起床。その後、身支度が完璧でないときや集中したいときは自室、音楽をかけながらタスクをこなしたいときなどは共用のリビングと、内容や気分で仕事をする場所を分けています。

「ただ、誰かが先にリビングを使っていたら部屋に戻ります。4人いる入居者のうちテレワークをしているのは2人だけなので、今のところ困ることはありません。互いに何となく譲り合い、たまたま休憩が合ったときは一緒にコーヒーを飲んだり、ランチに出かけたり。ゆるく心地いい関係を築いています。もともと満員電車がとてもストレスだったので、ここに来て『自分は在宅勤務の方が合っているな』としみじみ感じますね」(はるさん)

気持ちに開放感が生まれ、料理・ヨガ・海と毎日が充実昨年7月から入居しているH.Iさん(30歳)は、都内の会社で総務をする会社員。以前は横浜市の1K・賃貸マンションで一人暮らしをしていましたが、契約の更新が近づいて来たのと、単身住まいを10年続け、家電のほとんどが耐用年数を迎えたことから心機一転、引越すことにしました。

各部屋に大きな窓があり、採光も十分。身支度がしやすいよう、すべての部屋に洗面台がついています(写真撮影/五十嵐英之)

「そのころ、仕事がテレワークに切り替わり、週1回出社すれば済むようになったんです。遠方でも構わないので、環境のよいところにしようと思いました」(H.Iさん)

「一から家電をそろえるのはもったいない」と、家具・家電つきのシェアハウスを選択肢に入れたH.Iさん。しかし他人と住むことに不安もありました。そのため賃貸マンションも考えますが、内見するうちにシェアハウスへの思いが高まっていきます。

キッチンのカウンターは作業台とテーブルを兼ねていて、仕事をしたり、入居者同士でおしゃべりしながら料理をしたり、過ごし方の幅が広がります(写真撮影/五十嵐英之)

「外出自粛とリモートワークが重なって家にこもりがちになっていたため、メンタルの疲れを感じていたんです。『適度に人と触れ合える暮らしっていいな』と、ひかれました。

最初に男女混合・100人規模のシェアハウスを見学したのですが、入居者の顔が見えにくく、コミュニティが完全に出来上がっているのが難しそう。少人数・女性限定の『ヨコスカシェアロッヂ』を選びました。
同じ条件の下だとおのずと似た性格が集まるのか、お互い干渉しない人ばかりで、楽しく過ごせています。人数が少ないと逆に目が届きやすく、厳格なルールがなくても共用スペースをきれいに保てるんですね」(H.Iさん)

平日は午前中にメールやチャットを返し、13時から14時まではランチ休憩。午後はデータ作成やオンライン会議などをして、19時にはプライベートタイムです。

「以前は窓を開けても味気ない風景でしたが、今は木々が多くて海も見えて、四季を感じられます。自室のほかに広いリビングが使えるので、気分転換がしやすいです」(H.Iさん)

「自室で仕事をするのは主に午前中ですが、集中したいときにも使います。今は週一度の出勤が、ほどよいペースです」(H.Iさん)(写真撮影/五十嵐英之)

H.Iさんの部屋は窓に向かってデスクが置かれており、開けると清々しい緑が広がります(写真撮影/五十嵐英之)

往復約2時間半の通勤時間がなくなったことで「ゆとり」が生まれ、同時に郊外型シェアハウスならではの「仲間」と「自然」を手に入れ、ライフスタイルも大きく変化したそう。

「料理をするようになって、最近はよくパンを焼いています。入居者同士で誘い合ってヨガをすることも。休日は缶酎ハイを持って散歩がてら海へ。公園感覚でふらりと行けるのが最高だなと思います」(H.Iさん)

日常で何気なく人と関われる幸せをコロナ禍で気づく職場にあった何気ないコミュニケーションがコロナによって断たれたものの、シェアハウスでそれを取り戻す結果となり、H.Iさんもはるさんも「人と接すること」の大切さを実感しています。

「壁越しに生活音を聞いたり、『おはよう』の挨拶を交わしたり、軽いノリでご飯を食べにいったり。たわいもないことが、心を平穏にしてくれているものだなと。『シェアハウスって面倒そう』と思う人がいるかもしれませんが、全然そんなことはなくて、私はおすすめです」(H.Iさん)

「ヨコスカシェアロッヂ」が上手くいっているのは少人数だからで、もしテレワークをする人が増えれば、さらなる工夫が求められるかもしれません。ただ、心地よさの理由はそれだけでなく、前提としてはるさんとH.Iさんが自分に最適なシェアハウスを選び、共同生活のなかで人とのつながりを大事にする思いを持てているからではないでしょうか。コロナ禍で価値を見つめ直したことが、より自分らしい暮らしをもたらす結果になったよう。シェアハウスとは何かを考えるうえで、参考にできる好例といえそうです。

●取材協力
ひつじ不動産
ヨコスカシェアロッヂ
すいれん館
ARTdoor’s(アートドアーズ)
MOTENA PLEASE(モテナプリーズ)

(星野真希子)

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